ドラゴンさんの子育て日記⑨

新聖歴889年 茄月の二日


 気づけばもう今年も半年が過ぎておる。ルグネもすくすくと育っておるし、我は身ごもったし、本当にルグネを拾ってから我の日常は目まぐるしく変化しておると思うとなんだかおもしろい。

 でもこういう変化も悪くはない。


 新聖歴889年 茄月の五日


 ライラが隣の村へ出かけるらしい。なんか親戚が居るらしい。

 しばらく出かけるということで、我はちょっと寂しい。


 新聖歴889年 茄月の七日


 ライラが居ない事を寂しいなとなっておったら、ラオが一生懸命元気づけようとしてくれた。

 あまりにも必死すぎて笑ってしまった我である。我が笑えばラオも喜んでおった。ルグネもラオの腕の中できゃっきゃっと笑っておる。


 新聖歴889年 茄月の十日


 ライラはまだかえってこない。移動時間も含めたら時間がかかるらしいから仕方がない。

 うむ、子が出来ておらぬなら送り迎えしたのだがの。

 ルグネもねぇねはー? と探している。


 新聖歴889年 茄月の十二日


 ライラが戻ってきた。お帰りと歓迎しまくっていたら、ライラに呆れられた。


 新聖歴889年 茄月の二十日


 ルグネが立った!


 新聖歴889年 茄月の二十一日


 昨日の日記では喜び過ぎて一文になってしまった。そう、ルグネが立ったのだ。つま先立ちというやつである。うむ、一生懸命立とうとしておって愛いぞ。

 ただもうそろそろ歩き始めるなら気を付けなければ。我の棲家は山の上の方にあるのだ。落ちたらやばいのである。


 新聖歴889年 茄月の二十五日


 ルグネが愛い。

 ラオもルグネの可愛さにやられておる。

 ルグネが一生懸命立とうとしているのを応援していたら、ライラに騒ぎすぎと怒られた。

 我とラオが怒られておったら、ルグネがそれを見ておかしそうに笑っていた。


 新聖歴889年 茄月の三十日


 ライラは今もきんきらきんのことを悩んでいたりもする。

 きんきらきんを好きか嫌いかでずばっと答えればいいと思うのだが、そうもいかないようである。

 うむ、人というのは面倒である。すぱっと返事をすればいいのにと思う我である。

 我は番おうと思うまでは「番う事に興味ない」とばっさりラオに返事を返しておったしな。でも、人と竜では考え方が違うのであろうし、悩むライラを見守るとしよう。



 新聖歴889年 須月の三日


 身体の中の卵がどんどん力を増しているのがわかる。

 命の鼓動がするというか、命が存在するのが魔力でわかるからなんていうか、こう、生まれる前から愛しさがこみあげてくるというか。

 正直子が生まれるからとわくわくしている雌たちの気持ちが我にはわからなかったのだが、こういう気持ちなのか。


 新聖歴889年 須月の六日


 生まれるのはまだ先だが、名をどうするべきかは考えておかねばならぬな。

 ルグネの名はドラグネスと我の名から取ったわけだが。ルグネと生まれてくる子は種族は違っても兄弟として生きていく事になるわけで、兄妹とわかるような名がいいだろうか。


 新聖歴889年 須月の十日


 きんきらきんがまたもうすぐやってくるらしい。

 村にそういうお手紙が来たのだとか。ライラが難しい顔をしている。


 新聖歴889年 須月の十二日


 なんだか村から悲鳴が聞こえてきたので、我とラオで向かった。ルグネは棲家に来ていたライラに任せた。子が腹にいる時に暴れたくはないのだが、あの村はライラの家があるわけで、何かあっても困るのである。

 向かったらゴブリンとか、オーガとかが沸いておった。すぐに我とラオで排除した。正直我とラオの敵ではない。

 それにしてもこのあたりにあれだけの群れはいないはずなのだが。何か環境の変化でもあったのだろうか。人間共に感謝された。感謝されるのには悪い気はせん。

 でも我、ここがライラの家がある場所で、お世話になっている場所ではなかったら襲われておろうとも手助けはしなかったから感謝とかはせんでいい。


 新聖歴889年 須月の十五日


 村が一々襲われるたびに助けに行くのも面倒であるので、我の鱗で魔物避けを作ってやる事にした。

 ドラゴンの鱗はそういう価値があるらしいのだ。でもライラがそれ聞いたら倒れそうになっていた。

 なんでもドラゴンの鱗に人は高額な価値をつけているらしい。特にこのあたりでは我やラオのような白竜と黒竜は見ないから特に価値は高いだろうといわれた。別に我があげるといっておるのだから金額など気にせずに受け取ってほしいのだが。

 第一、我らに人の世で使うお金など必要もない。使い方もようわからん。


 新聖歴889年 須月の十七日


 結局作った魔物避けは受け取ってもらえた。村に置いておけば我の魔力におそれをなして襲い掛かってくる雑魚共は消えるだろう。なんかあがめられたが、良い仕事をしたと思っておこう。


 新聖歴889年 須月の十八日


 新事実である。我は人の世のお金の使い方とかようわからんし、友人と一緒にしか買い物なるものをしたことがないのにラオはそれをちゃんと出来るらしい。

 正直なんだと?という気分である。ラオは我よりそういうのが疎いと思っておったのに!ちょっとショックである。


 新聖歴889年 須月の二十日


 ライラにルグネを育てていくならお金の価値は知っているべきだといわれた。といっても田舎ではお金のやり取りより物のやり取りが多いらしいが、ルグネがどういう生活をするかわからないからと。

 ではお金を手に入れるために我の鱗を……といったら市場に出たらややこしいことになるからと止められた。我の鱗はそれだけ価値のあるものらしい。あきらめて人型になる気分の時だけライラがいつもやっている内職を手伝う事になった。


 新聖歴889年 須月の二十一日


 細かい事はすかん。やっていると苛々してきた。でもルグネが「がんがー」って多分頑張れーって言おうとしているのだが、応援してくれているので我頑張る。


 新聖歴889年 須月の二十五日


 きんきらきんがやってきた。

 ライラに相変わらず愛をささやいているようだ。

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