人造人間キカイダーThe Novel



 一応、知らない方に捕捉しますとキカイダーとは1972年に放送された「石ノ森 章太郎」原作の特撮ヒーロー番組「人造人間キカイダー」です。左右非対称な赤と青のボディに半透明な左頭部から覗く電子頭脳が奇抜で奇怪な機械ロボットヒーロー。東映を代表する特撮ヒーローのひとりですね。ちなみに最初は「ゼロダイバー」というタイトルだったそうですが、視聴率ゼロに飛び込むようで縁起が悪いという事でNGとなり、石ノ森先生考案の「キカイダー」になったそうです。

 本作品はそんな人造人間キカイダーをリブートした2014年公開の映画「キカイダー REBOOT」のノベライズ作品として2013年に発売されました。著者は「万能鑑定士Q」等で有名な「松岡 圭祐」先生です。こういった形のノベライズ作品で著名な作家さんを起用するのは稀な事だそうで、映画の製作に関わったKADOKAWAの映画を成功させたい本気度が見えます。残念ながら映画の方はコケてしまいましたが……。

 中身は一部を除いてREBOOTとは別作品で松岡 圭祐先生の描くオリジナルの現代版キカイダーですので映画を観なくても楽しめます。


 あらすじーーーー


 舞台は震災後の原発問題等を抱える現代日本。

 ロボット工学の権威 「光明寺博士」が突如謎の失踪を遂げた。ある日、博士の娘「光明寺 ミツコ」の前に警察を名乗る怪しい男達が彼女を連れ去ろうとする。その時、ギターの音色がどこからともなく流れてきた。



 本作のキカイダーは光明寺博士がプレジデント・ギル(プロフェッサー・ギル)の設立したダーク・マジェスティック・エンジニアリング社(ダーク)で潤沢な制作費を使い青色の医療救護救難用ロボット「ゼロダイバー」と赤色の殺戮戦闘用ロボット「フュージティブ・フロム・ヘル」の開発を進めていた。と、見せかけて半身を繋ぎ合わせて本来の目的である「キカイダー」を作り出します。

 ダークの目を盗んで潤沢な制作費を使い生み出されたこのキカイダー。左右非対称の理由付けも納得でき、ちょっとした小ネタもはいっていて設定がウマイです。フュージティブ・フロム・ヘルのプロトタイプである赤色の半身にはソーラーパネルが内臓されており頭部がクリアパーツとなっており電子部品が見えるというのは、知っている人はニヤリとします。ちなみに実際の動力は小型原子炉だったりします。

 キカイダーには「ジロー」という人間態がありますが本作では有機ELの表面に映し出された3D映像という設定です。

 ジローは行方不明となった光明寺博士の命を受け、ダークの差し向けた刺客から博士の子ども「ミツコ」と「マサル」を守るべく動きだします。


 今作のヒロインであるミツコは内気でオタク気質な大学生です。学校の敷地内で愛用のニンテンドーDSで「ときめきメモリアルガールズサイド」をプレイするという趣味を持っていて現実の恋愛には奥手。数少ない友人の誘いを受けた渋谷のコスプレイベントで「プリキュア」のコスプレをしてきたりします。ちなみに弟のマサルは「ワンピース」のファンらしく「ルフィ」のコスプレで参加し、ジローの戦いを見て「すげえ、海賊無双みたいだ」とはしゃいだりします。


 このコスプレイベントでダークの量産戦闘ロボット「アンドロイドマン」達が全く怪しまれずに堂々と真っ正面から侵入してきます。このコスプレイベントから話は大きく動きだしキカイダーとしての戦闘シーンが導入されていきます。


 今作には、数多くのダーク破壊ロボットの登場やキカイダーの技の数々が再現されており、松岡先生がキカイダーがお好きだというのがよくわかります。好きでないとこんな描写書けませんというのが盛りだくさんです。

 あと、キカイダーと言えば良心回路ジェミニィがテーマのひとつとなっており、不完全な良心回路が生み出す複雑な感情にジローが苦しむ事が多いのですが、今作は敵にも複雑な感情描写があったりします。普通は量産戦闘ロボットに感情を入れないと思うのですが、アンドロイドマンは破壊される事を極端に恐れます。人間は勝手に直るがロボットは部品交換しなければ直らない。交換された部品はもはや自分ではない別物だという彼ら視点の描写も描かれており、命令には逆らえずキカイダーに倒されるアンドロイドマンを短く目立たせています。ちょっとネタバレに近いですが、興味を引きやすい描写だと思い紹介しました。その他語りたい事は長くなるので割愛します。


 さて、キカイダーといえば忘れてはいけないのが宿敵「ハカイダー」です。

 ハカイダーの特徴といえば頭部のドーム状のクリアパーツから覗く光明寺博士の脳髄です。ハカイダーは生みの親である父の脳を頭に抱え、兄とも言えるキカイダーを倒すという目的のみを行動理念とし、殺しの美学を重んじる。特撮ヒーロー界に置けるダークヒーローの金字塔といって過言では無いでしょう。

 本作も、光明寺博士の脳髄を備えた頭部と殺しの美学を携えてキカイダーを破壊しに現れます。ハカイダーの特長は緻密に描写されており、初登場からどんな外見かが頭に直ぐに浮かんでくる程ハカイダーの魅力を存分に描いております。

 特に凄いのは、彼の武器「ハカイダーショット」でしょう。コルトパイソン・リボルバーのような外観に濃縮液体酸素とエタノールを燃料とした弾丸がジェット噴射で跳び、超小型追尾装置は相手がどこにいようと銃身をどこに向けようとロックオン完了すればトリガーを引くだけで必ず命中するチート銃。まるでサイコガンですね。


 しかし、悲しいかな光明寺博士の脳髄を抱えている事により、いくら正々堂々と殺しの美学を突き詰めようとキカイダーはまともに戦う事はできず、脳髄の血液交換という枷まであるので思い通りにキカイダー破壊を遂行できません。おまけにキカイダー破壊を目論む邪魔者まで現れます。彼はこの手でキカイダーを破壊したいので、同じダークであろうと邪魔する者は破壊します。

 さて、原作のキカイダーでは実はハカイダーはキカイダーを倒すこと叶わずダーク破壊ロボット白骨ムササビに粛清されてしまいます。結局キカイダーと決着をつけられねまま、脳髄は光明寺博士に戻され、殺しの美学を重んじるカッコいいハカイダーはここで死んだといってもいいでしょう次番組「キカイダーゼロワン」にも彼は序盤から登場しますが……。

 話がそれましたが、今作のハカイダーは本懐を遂げるべく自ら行動を起こします。が、それは読んで欲しい所なのでここでは書きません。ごめんなさい。


 さて、この「人造人間キカイダーThe Novel」松岡先生の科学知識が惜しみ無く散りばめられており、非常に面白い作品に仕上がっております。先生も続きが書きたかったのか次作「キカイダーゼロワン」に続きそうなネタがいたる所に盛り込まれ終わります。恐らくコラボ企画であるため、続編は描かれ無いでしょうね。読み返すと松岡先生の「ゼロワン」や「ダブルオー」を読みたい気持ちが強くなるなぁ。


 ちなみに映画「人造人間キカイダーREBOOT」は日本ではコケてしまいましたがキカイダーが国民的なヒーローであるハワイではヒットしたようで続編の要望が高いそうです。

 あと、東映さんは次のREBOOTに「ロボット刑事」という特撮ヒーローを考えていたようで、当時YouTubeで少年チャンピオンの新連載PVが流されていました。新連載は無かったように記憶しています。




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