ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン

 この作品は2016年10月に上下巻で刊行された米国作家ピーター・トライアス著(日本語訳・中原なかはら 尚哉なおや)のSF小説です。略称は「U・S・J」


 あらすじーーーー


 第二次世界大戦は日独の枢軸側すうじくがわの勝利に終わった。時が流れた1988年、アメリカ西海岸は「日本合衆国」の統治下にあった。巨大ロボット兵器「メカ」が闊歩する日本合衆国で、情報統制を担当する帝国陸軍検問局ていこくりくぐんけんもんきょく勤務「石村いしむら 紅功べにこ」大尉は、特別高等警察とくべつこうとうけいさつ槻野つきの 昭子あきこ」の訪問を受ける。槻野は石村のかつての上官「六浦賀むつらが 計衛かずひろ」将軍を捜していた。



 SF作家フィリップ・K・ディックの歴史改変SF小説「高い城の男」にインスパイアされた「心の続編」という作品。2017年に日本で「本屋大賞」で翻訳小説部門の第2位と、「第48回星雲賞」では海外長編部門(小説)を受賞しました。


 僕は表紙に描かれた仮面ライダーカブトマスクドフォームチックな「メカ」に惹かれて購入しました。が、本作でメカの戦闘描写はほとんどありません。主軸は石村紅功大尉(ベン)と槻野昭子課員が追うミステリーサスペンスです。


 本作のプロローグは終戦間近の日系アメリカ人収容センターから始まり、石村大尉の両親視点で日本軍の新兵器「原爆」の投下や天皇陛下への不敬発言による粛清など、自由の象徴 アメリカ合衆国USAから支配の日本合衆国USJへと変わる様が描かれます。このプロローグで日本軍とナチスドイツがとんでもない「未知のテクノロジー」を保有している事を臭わせます――――ビルよりも背が高く、赤い目をした人影を見たんだ。歩くと地響きがした。空に向かって火を吐くところも見た。天皇が空から火を降らせるって、俺たちは大ぼらだと笑い飛ばしたけれど。神はなぜ守ってくれなかったんだ? 天皇は神だと聞いた。わからない。


 時の流れた1988年には既に「機界」と呼ばれる制限されたインターネットらしきものが存在し「電卓でんたく」と呼ばれる計算機に電話など様々な機能が搭載されたスマホのような便利ツールが出回っています。日本合衆国民は創氏改名そうしかいめいと呼ばれる日本語の正式名称を名乗り通名として英名を残してもよいことになってます。主人公のひとり石村 紅功の通称は「ベン」となってます。ちなみに石村大尉は「紅功べにこ」ですが男性です。念のため。


 かなりショッキングな世界観となっており、機械と人間の接続手術が可能で「肉電話」とか「機銃装備義手ガンアーム」等が登場します。

 天皇陛下は神であり仮面を着けたホログラムで登場し言葉も発しません。作品内の一説によれば原爆の影響で天皇は子をなせない身体になっているらしいです(これが昭和天皇なのか平成天皇なのかは説明されてませんが少なくとも令和天皇は生まれていない。1988年なので僕らの世界ではまだギリギリ昭和天皇の時代ですね)。


 食事シーンはわりと豊富で朝ごはんにかっぱ巻きを食べたり、レストランでアメリカナイズな日本食、蜂蜜入り「天ぷらバーガー」なんてものを食べてます。ここは米国作家さんだなって感じ。

「電卓ゲーム」と呼ばれるネトゲがあり、違法な日独が敗北する歴史改変シミュレーションゲーム「USA」が登場し、石村のかつての上官である六浦賀将軍がこのゲームを開発し、アメリカ人抵抗組織「ジョージ・ワシントン団」に協力しているという疑惑を追っていくのが物語の目的です。


 メカの戦闘描写は少ないですが、その描写は濃厚です。無数のケーブルに繋がれるパイロットが球型のゼラチン媒質に浮き、化学物質が神経とメカを中継し、壁に貼られたマジックミラーが全方位確認可能。神経インターフェイスがデータを詳細に分析するコックピット描写あり。人型メカ〈トーチャラー級 ハリネズミごう〉とナチスドイツ第三帝国軍の巨大戦車〈マウスIX超重戦車〉との戦いは迫力があります。この戦闘に登場する隷属人体改造兵士「バイオモーフ」の投入にナチスドイツ側の異常さも現れています。戦闘はかなり満足感がありますがやっぱり少ないなと思うのでメカ目当てだと物足りないかも知れません。ちなみにパイロットは石村ではなく上巻が「久地樂くじら」という義足の女性。下巻が彼女の子どもの「久地樂くじら」がパイロット。こちらのメカは〈ムササビごう〉一対八のメカバトル戦を展開します。読んでる時の声は上巻は「くじら」さんでしたね。名前的にね。



 ラストは「え、嘘でしょ」て感じで終わりますね。なんとなく西部劇的な終わり方。

 続編に「メカ・サムライ・エンパイア」というメカ戦に比重を置いた作品がありますが、まだ読んでません。表紙絵だけ見たんですが日本刀を持ったメカと怪獣が描かれてます。なんでもこの怪獣がナチスドイツ第三帝国軍の巨大生体兵器〈バイオメカ〉らしいです。作者曰く「パトレイバー」「エヴァンゲリオン」「メガマンロックマン」「ペルソナ」の影響を受けてるらしいのでいつかは読まないとなと思います。

 あと、メカはリアルロボットではなくスーパーロボットだと思います大きさ的に(たぶん描写読むと真ゲッター1くらいデカイ)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る