026:この悪逆なるダンジョンに一輪の華を。
「あー疲れたー」
俺はベッドにダイブする。
なんかすーごい疲れた。
精神的に。
カンナ様怖いわー。
あんな怖い幼女初めて見たわー。
「にゃー」
すると、ルルもベッドにやってきた。
だから当然の理として、俺はルルを撫でる。
疲弊しきった精神がとてつもなく癒されていく。
「ルルは可愛いな〜。あの幼女とは大違いだ〜」
「にゃー、きもちぃー」
「そかそか〜。気持ちいかルル〜」
なんて可愛いいんだ、ルルは。
ルルの声が聴けるようになってからより一層愛おしさがましたわ。
撫でられてるとき、ルルは“きもちぃー”って言ってるってやばくね?
可愛さ半端ないっしょ。
無限に撫でてられる。
それにしても……。
俺は寝転がりながらルルを撫で、ついさっきまでの光景を思い出す。
予想以上に何もわからなかったな。
カンナ様のこと。
さすがと言うべきか。
何も情報を貰えなかった。
種族ぐらいは知れると思ったんだが。
いや、もちろんカンナ様が───
『魔王【幼女種】』
の可能性もある…………いや、ねぇだろ。
さすがにないわ、幼女種は。
どういう意図かは知らんが、幼女の姿を好んでしてるらしいな、カンナ様は。
まぁいい。
俺は一応『カンナ派閥』に加わった。
カンナ様のことを知る機会はこれからいくらでもあるだろう。
問題はもう一つの方だ。
もう一つの派閥の方。
確か、『ガルゴレアン派閥』だったか。
現地の存在なのか、選ばれた存在なのかも分からない。
なんだよ、ガルゴレアンって。
うーん、急ぐ必要もないか。
これからゆっくりと対策は考えよう。
今は目先のことに集中しよう。
…………というより、やることが増えたな。
一気に増えた。
ルルと俺たちの絶対なる安寧のために、やらなければいけないことが半端ないわ。
「さて」
俺は勢いよく身体を起こす。
一気に起こさないと、一生だらだらしてしまいそうだ。
とりあえずは────
大大大目標:ゴルデリア大陸東側の完全征服
大大目標:脅威となりえるダンジョンと国家の全制圧
大目標:人間のいない国を作る
中目標:人間と魔物の家畜化
小目標:生き残る
俺はPCを起動し、目標を追加した。
目標の明確化は大切だからな。
未だに小目標の『生き残る』すら危ういのだから、やるべき事は尽きない。
はぁ……。
道のりは長いな。
……でもなんだろなー、この感覚。
今すっごい“生きてる”って感じるわ。
なんで俺はこんな死ぬかもしれない毎日を、充実してると感じてるんだろうな。
くそったれなことには変わりないけど、やっぱりほんの少しだけ、管理者Lには感謝してるよ。
さて、じゃあとりあえずダンジョンの強化フェイズを再開するとしようか。
今俺のダンジョンに足りないのは処理能力だ。
つまり、一度に処理できる人間の数が少ない。
その辺の構想はすでにある程度固まっている。
『ヴァルキリー』の創造はその後でいいか。
んじゃ、ちゃちゃっとダンジョン強化しちゃいまーす。
++++++++++
はい完璧ー。
今回のダンジョン大幅強化で、だいぶ“殺人力”が上がったと思う。
より確実に、より多くの人間を無理なく殺せるようになった。
まずは念願の“階層追加”ね。
一気にB2FとB3Fを作っちゃったよ、嬉しくて。
それにともない、俺の聖域たるこの部屋もB3Fに移動させた。
当たり前だよな。
より地下にある方が安全だし。
部屋の移動とかはやっぱり魔力でできるんだよねー。
どうも最近分かってきたんだけど、『無から有を生み出す』のには『DP』がかかるっぽい。
それ以外はだいたい魔力で操作できる。
ダンジョンのことなら。
ふぁんたじー。
じゃあ、とりあえずB2F。
この階層に題名を付けるなら『精神メッタ刺しの大迷路』
ここは“消耗”を狙うフロアにした。
その名の通りこの階層は『迷路化』してある。
当然、至る所に仕掛けられた様々なトラップと『フロア倍化』も欠かせない。
通路も狭くしてあるから、大人数であればあるほどトラップを回避しずらくなる。
しかも魔物も1匹もおらず、ただひたすらにトラップに意識を割きながら同じ風景の迷路を進み続けるというのは、人間の心理としてはかなりの辛いものがあるだろう。
───しかし、これだけではない。
これだけで『精神メッタ刺し』は名乗れない。
この迷路の最大の特徴は『動く壁』である。
まあ種明かししてしまえば、この迷路にはいくつか、『オークが背負って動く壁』があるのだ。
ダンジョンの目で全てを視れる俺がこっそりと指示を出し、壁を背負ったオークが移動する。
これがうちのオークたちの新しい仕事だな。
つまり、どれだけ印をつけながら進んだとしてもなんの意味もない。
なぜなら、迷路自体が変化し続けるのだから。
素晴らしい。
実に素晴らしい。
オークの『我慢強い』という特徴もとても生かされている。
加えて、バレないように最後尾の奴に俺が不意打ちを仕掛けることもできる。
迷路は抜けられず、トラップが張り巡らされ、忽然と仲間が消えていく。
まさに精神メッタ刺しだわ。
肉体的にも精神的にも大いに“消耗”してくれることだろう。
しかし、この迷路が絶対に抜けられないかと言えばそうではない。
この壁の移動は、オークたちが絶対にバレないことを最優先する。
だから動くタイミングがなく、迷路を抜けられてしまうことも当然あるだろう。
そうして、運良く迷路を抜けた先にはB3Fへと続く階段がある。
B3Fの名は『終点』である。
ここまで辿り着く奴ってのはかなりの猛者だろう。
だからここに辿り着いたやつには、俺が全力で挑むしかないわけだ。
正確には、俺と『ヴァルキリー』の予定だけど。
このフロアは『終点』の名の通りシンプル。
ただ“フロア倍化”しただけ。
しかし、ありとあらゆる罠が仕掛けられている。
その全てが手動。
俺の意思で全て動かせる。
ここで、今の俺の全てを持って侵入者を殺す。
なんせ終点だからな。
うんうん。
実にダンジョンらしくなった。
3階層になったし。
あーあと、1階層の樹海エリアも強化した。
題して『失明の樹海』
なんか凶悪そうな名前だろ?
とは言っても、大きくフロアをいじったわけではない。
強いて言うなら、オーガたちの隠れられる“カラクリの壁”を作ったくらい。
クルりと裏表が入れ替わる壁ね。
投擲を防いだ奴に、オーガたちが見つからないように。
まぁ、これは些細なものだ。
大きな変化は別にある。
実は───新たな魔物を創造したのだ。
いい奴を見つけたからね。
・コロックル[4000]:握り拳サイズの小人。人間並の知性。めっちゃ素早い。弓の名手。幸運の象徴とされており、絶滅危惧種。
凄くいい。
凄くいいよなこいつ。
と思って、試しに一匹創造してみたのよ。
すると現れたのは、葉っぱとツタで出来た服を着ていて、自分の身体をすっぽりと包み込めそうなほどの大きな葉っぱ2枚をかぶったような髪をもつ小人だった。
『隊長ー!! これからよろしくお願いします!!』
と、元気な奴だったので、とりあえず名前をつけた。
なんとなくパッと見で浮かんだので『どんぐり』とつけた。
引くぐらい喜んでて引いた。
それからこのコロックルを合わせて30匹創造。
15匹ずつB1F樹海エリアの両側に配置した。
話を聴いてみると、元々森で生活している種族らしく、俺が樹海エリアに案内するととても喜んでた。
なんかももたろうたちにも挨拶しに行ってたよ、偉いね。
本来コイツらは狩猟などを中心もとした“社会”を形成し、その高い知性から人間と争うことはないっぽい。
だからこそ『幸運の象徴』なんて説明文があるのだろう。
小さいうえにめっちゃすばしっこくて見つからないし、こいつら。
見かけたらラッキー、みたいな。
さて、ではこいつらコロックルに何をしてもらうのか説明しよう。
コイツらは種族の特徴的に『弓の名手』らしい。
それは本来、一際小さな身体を持つコイツらが、集団で狩りをするという歴史の中で発達した能力だろう。
けれど、武装した人間にはなんの意味もない。
コイツらの小さな弓ではせいぜい『イテッ!』と言わせるぐらいだ。
しかし────
────人間には、絶対に武装できない箇所がある。
それが『目』だ。
人間は情報のほとんどを目に頼っている。
だから目を覆い隠すなんてことは絶対にしない。
その一点のみを、暗闇の樹海に紛れた小さなコロックルたちが狙い撃つ。
『失明の樹海』
うぅーこっわ。
我ながら怖いこと考えるなー。
しかも、目が見えなくなってパニクってるところにオーガたちによるパチンコ玉投擲でしょ?
やばくね?
思った以上に凶悪じゃね?
……これ、迷路エリアに来れるやついるかな……。
うん、ここまでに結構DP使っちゃった。
後悔は全然してない。
生き残るために最善を尽くせたと思う。
階層追加×2───40000DP
迷路化───800DP
フロア倍化×2───14000DP
充実しすぎたトラップ───約10000DP
壁のカラクリ×10───5000DP
コロックル×30───120000DP
合計約189800DP
羽振りいいなー俺。
まあ命かかってるし、このくらいわねぇ。
んで、現在残ってるのが、この間の家畜共の自動回復分と死体の還元分も合わせて───1017726DP
こんなにダンジョン改造してまだ100万残ってるってなんか、いいのかなーと思ってしまうわ。
貧乏癖が抜けない。
でもいいや。
ようやく『ヴァルキリー』を創造できる。
自然と笑がこぼれる。
俺は、楽しみは最後に取っておくほうなんだよ。
++++++++++
部屋の前の通路、俺は1人で『ヴァルキリー』を創造する。
100万という莫大な数字に、やはり手が少し震えてしまう。
だが、もう決めた。
今取れる最善の選択を選び続けなければ生き残れない。
ここはそういう世界だ。
だから出し惜しみはしない。
ルルを失ってから後悔しても、遅いのだから。
「じゃあ、押すぞー。押すからなー。まじで押すからなー。……いや、もう普通に押すか」
俺は意を決し、『ヴァルキリー』という項目をタップする。
するとほぼ同時に、光輝く魔法陣が現れる。
いつもと同じ光景だ。
その光は刹那なおさまり、魔法陣は消え、代わりにそこには1人の女。
しかし、人間では決してない。
感覚的にそれだけは分かる。
不気味な程に整った容姿。
銀色に輝く長い髪。
そして俺とは正反対の───純白の翼。
間違いない───ヴァルキリーだ。
俺はしばらく黙ってそいつを見つめる。
ないとは思うが、襲いかかってくる可能性もゼロではない。
だから一瞬たりとも気を緩めない。
そのために完全武装もしてきている。
暫くの間、俺とそいつの視線は交錯し続ける。
それからゆっくりと、そいつは口を開いた。
「お初にお目にかかりまふっ…………。お初にお目にかかります、マスター」
───噛んだ。
そして、何事もなかったかのように言い直した。
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