034:いろいろ。


 うーん、やっぱり素晴らしいわー。

 今回は獲得できた魔道具もスキルも多い。

 なんかあいつら、くっそ弱いくせに持ってるもんは一級品だったんだよなー。

 ……魔銀製の装備も多いし。

 ダサいけどシエルにでもあげよう。

 そう思い、俺はチラッと後ろのシエルを見てみる。

 今はルルと遊んでいるようだが…………


「ねぇねぇ子猫ちゃん、マスターに気に入られるにはどうしたらいいのか教えてくれませんか?」


「にゃー」


「私も貴方のようにマスターに甘い言葉かけられながら頭を撫でられたいんです」


「にゃにゃー」


 何やってるんだろ……。

 意外と緑山の方が優秀なのではないだろうか。

 本気でそんなことを思ってしまう。

 だって今コイツは大人しく俺の隣でPC画面をじーっと眺めているから。


「見てて楽しいか?」


「楽しいっすよ」


「へぇー」


 なんだコイツ。

 まぁいいや。

 考察を続けよう。

 今俺の目の前に並べられている、新たに手に入った魔道具は次の4つ。



 収納系魔道具【カルバナ】

 長距離通信系魔道具【エイグル】

 映像記録系魔道具【フィルミ】

 音声記録系魔道具【サウドラ】



 収納系魔道具とかは前回も手に入ったが、今回のはなんか【カルバナ】って名前がついてたから別にした。

 メーカー? ブランド? 

 とりあえず“カルバナ”って名前らしい。

 それにどう見てもこっちの方がハイグレードな感じするし。


 見た目は掌サイズの箱。

 色は光沢のある白で、ベルト付き。

 箱の側面には【Ⅰ】【Ⅱ】【Ⅲ】【Ⅳ】という文字と、それぞれの文字の下に【0%】と表示されている。

 この箱についていろいろ調べてみたら、いろいろ分かった。


 なんか【Ⅰ】に触れると箱が開いて、試しにポーションを1つ入れてみると【1%】と表示された。

 また【Ⅰ】に触れると箱が開き、手を入れればポーションが1つ取り出せた。

 すごっ。

 どうやら他も同様のようで、【Ⅰ】【Ⅱ】【Ⅲ】【Ⅳ】の4つに入れ分けできるらしい。

 それで下のパーセント表示は『空間使用率』だと思った、多分。


 やば、なにこれ。

 こんなのあんのこの世界、すげー。


 えっと、次に行こう。

 長距離通信系魔道具【エイグル】

 これは一応すでに持ってる。

 あの恐ろしい幼女魔王から貰ったやつもあるし。

 ただ、色が違う。

 幼女魔王から貰ったやつは黒。

 だけど今回手に入れたのは、水晶のように薄く青みがかった手のひらサイズの長方形の板。

 厚さは1センチくらい。


 んで、残り二つが完全に初めての魔道具。


 映像記録系魔道具【フィルミ】と音声記録系魔道具【サウドラ】。


 まずは【フィルミ】から。

 親指とほぼ同じ大きさの円柱。

 片方だけに窪みがある。

 隠しカメラって感じ。


 ふーん。

 これでダンジョン内を撮影してたのかな。

 情報収集?

 やっぱ侮れんわー人間。

 まだシエルのことバレるわけにはいかなし。


 【サウドラ】の方は小さい球体。

 親指と人差し指で輪っかを作ればすっぽり収まるサイズ。

 【フィルミ】と2つで1つって感じがする。


 これだけ小さいと本当にいろいろな使い道があるなー。

 鳥や蟲の魔物に持たせてスパイ活動とか。

 だけどこれは今のところ使い方がわからない。

 後でゆっくり調べよーっと。


 よし、こんな感じかな。

 魔銀多いし装備が整うわー。

 あとはDP消費して作った倉庫行き。

 今のところは。


 さてさて、お次はスキル。

 コイツら雑魚かったのにいろんなスキル持ってて豊作だったんだよなー今回。

 スキルについては未だよくわからないわ。

 なんでコイツらはいろんなスキルを持ってたんだろう、弱いのに。

 もしかしたら血統とか生まれ持った潜在能力とかも関係があるかもしれない。

 そのあたりも知りたいとこだわ、いつか。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、俺は『スキルだよん☆』をクリックした。



《斬撃》×4

《刺突》×3

《幸運》

《切断強化》×3

《不可視化》

《危機感知》×2

《敵意感知》

《好情ノ香》

《宮廷作法》×2

《無缼炯眼》

《欺瞞ノ相》

《魔力知覚》

《魔力偽装》

《スプラッシュ》

《エアロステップ》

《ミストフロア》

《バインド》  



 おぉー。

 やっぱりたくさんあるわー。

 とりあえず上から新しいスキルを見てこ。

 うきうき、わくわく。

 俺は順々にクリックしていった。



 刺突:武器スキル。刺突系攻撃に補正。攻撃力、貫通力ともに上昇。


 幸運:特殊スキル。運気に補正。常時発動。


 不可視化:特殊スキル。任意の対象1つを物理的、魔力的に認識不可能とする。発動中は常に魔力を消費。


 危機感知:特殊スキル。危機意識の鋭敏化。常時発動。


 敵意感知:特殊スキル。敵意に対し感覚を鋭敏化。常時発動。


 好情ノ香:特殊スキル。他人から抱かれる印象に補正。常時発動。


 宮廷作法:特殊スキル。宮廷での作法に対し抱かれる印象に補正。常時発動。


 無缺炯眼:特殊スキル。あらゆる事象を看破することが可能。使用者の熟練度に応じて効果変動。


 欺瞞ノ相:特殊スキル。表情に対し抱かれる印象に補正。発動中は常に魔力を消費。


 魔力偽装:特殊スキル。魔力を偽装することが可能。使用者の熟練度に応じて効果変動。常時発動。


 スプラッシュ:水魔法。水の鋭い刃が敵を薙ぎ払う。その威力は術者の魔力量に応じて変動。


 エアロステップ:無魔法。空気の足場を生成することが可能。その効果は術者の魔力量に応じて変動。


 ミストフロア:水魔法。任意に霧を生成することが可能。その効果は術者の魔力量に応じて変動。


 バインド:無魔法。任意の対象を拘束することが可能。発動中は常に魔力消費。その消費量は術者と対象の魔力量により変動。



 満足、満足すぎる。

 相変わらず《斬撃》と《切断強化》は盛大に被っているが、それ以外は新スキル。

 また生存率と殺傷能力が上がったわー、主に俺の。

 

 それじゃ振り分け。

 4つもある《斬撃》はシエル、緑山、ももたろう、豚キムチに。

 《刺突》は俺とシエルと緑山。

 迷ったけど《幸運》は俺。正直効果にはあまり期待してない。

 《切断強化》はシエル、緑山、ももたろう。

 《危機感知》は俺。そして緑山と迷ったけどもう1つはシエル。御守りみたいなもんだろこれ。

 

 ……てか、《危機感知》なんてスキルがあんのになんでこのダンジョンに入ってきたんだ?

 クソスキルじゃね?

 いや、そう考えるのは安直か。

 危険だと思ったけど言えなかったのかな。

 見栄やメンツ、はたまた人間関係や上下関係で。

 今回の侵入者ってやたら身につけてるもん高価そうなもんばったかだし、いろんなしがらみがあったのかもなー。

 《宮廷作法》なんてスキルもあるし。

 まぁ俺にとってはどうでもいいけど。


 さて、振り分けの続きしよーっと。

 とは言ってもあとは単純。

 《不可視化》《敵意感知》《好情ノ香》《宮廷作法》《無缺炯眼》《ミストフロア》《エアロステップ》《バインド》が俺。

 《宮廷作法》《欺瞞ノ相》《魔力知覚》《魔力偽装》《スプラッシュ》がシエルって感じ。


 これから先、この世界の人間に混ざって行動するかもな俺にとって今回獲得できたスキルはありがたい。

 《エアロステップ》は俺の機動力を上げてくれそう。魔法より包丁で斬りつける方が得意だし。

 《バインド》は家畜捕獲がめちゃくちゃ楽になった。


 意外に期待外れなのは《不可視化》

 最初俺は透明になれるかもと思ってたんだけど、普通に無理だった。

 なぜなら着てるもんが消えなかったから。

 任意の対象1つって本当に1つだったわけだ。 

 つまり透明人間になるには全裸になるしかない訳だが、それは嫌だ。

 見破られたらいろんな意味で終わりだし。


 でも、持ってる武器を透明にするというのはすごく有効だと思う。

 投げナイフを透明にしたり、包丁を透明にしたり。


 《欺瞞ノ相》は俺が取得しても良かったが、ぶっちゃけこれポーカーフェイスが上手くなるスキルでしょこれ?

 ポーカーフェイスなら死ぬほど得意だから俺には必要ない。

 むしろ必要なのはシエルだ。

 もしかしたらシエルも人間世界に紛れ込む羽目になるかもしれないからなー。

 ……現在のコイツを見る限り、シエル単独で人間世界に潜入させることはなさそうだけど。


 《魔力偽装》は《無缺偽装》の下位互換って感じだった。

 だから俺じゃなくてシエル。

 

 振り分けはこんな感じ。

 いい感じっしょ?

 あとはレベルだけど、30人殺した割にはしょぼかった。


 俺がLv.27、シエルがLv.18、ももたろうがLv.48、豚キムチがLv.47、緑山がLv.54


 特に進化した奴はいない。

 他のオーガやオークも各々レベルアップしてる。

 うんうん、概ねこんなもんかな。

 

 リザルトの確認を終えた俺はくいーっと伸びをして、背中と翼をほぐす。

 それからPC画面を見続け疲れた目に目薬をさして、首の関節をコキッコキッと鳴らせた。


 今までずっと横で静かに画面を見ていた緑山も俺とまったく同じようにしている。

 飼い犬は飼い主に似るってこういうことだろうか。


「目薬使うかー?」


「あ、いいっすか? サンキュっすボス」


 緑山は手慣れた感じで普通に目薬をさした。

 ……コイツ、無断で使ってやがったな。

 まあ全然いいけど。


 そんなことを考えていると、ふとシエルとルルの姿が目に入った。

 本当になぜそうなったのかわからないが、ベッドに座り『ヴァルナの魔導書』を読んでいるシエルの頭の上にルルはちょこんと座っている。

 あぁ死ぬほど可愛い、ルル。


 妙に静かだと思ったら本を読んでいたのか。

 確か『ヴァルナの魔導書』って最初にここに侵入してきた奴らの持ち物だったよな。

 なんだかすっごい昔のことのように感じるわー。


「なぁ、おい」


「にゃ?」


「にゃ? じゃねぇよ。イラッとするからやめろ」


「あれぇ。効果ないですよルルちゃんー」


「にゃー」


「なんの効果だよ。ってか、ルルといつの間に仲良くなったの? ルル〜この人好きか〜?」


「にゃー ふつー」


「そかそか〜。普通だってよ」


「え……マスター猫が何言ってるか分かるんですかッ!? ……というか今私にも分かりましたよッ!? そういえばそこのゴブリンの言葉も分かります!! これもマスターのお力ですかッ!?」


「まあねー。それよりお前さー、剣とか使えたりする?」


「ん? 剣ですか? たぶん使えますよ」


「マジ? ほんと能力だけは優秀だな」


「ま、マスターに褒められたぁぁああ!!」


「あーうるさい。まぁ使えるならいいや。今ももたろう達に今回手に入った道具洗ってもらってるから、それが終わったら魔銀の剣と鎧受け取っておいてねー」


「了解ですマスター!」


 オーバーに敬礼してみせるシエル。

 なんだかいちいち疲れる。

 喋るだけでしんどい。

 毎度のようにイラッとさせられる。


 ……だが、やっぱり嫌いになれない。

 なぜだろうか。

 コイツが人間ではないからか。

 それとも俺を慕ってくれるからか。


 ほんの僅かだが……本当にほんの僅かだが……シエルとのやり取りが嫌ではなくなりつつあるという…………。

 それが妙に悔しいわ、負けた感がある。


 この感じなんだろうなー。

 めちゃくちゃ手のかかる子供だからといって、それを理由に自分の子供を本当に嫌う親はいない。

 今の俺の感情を無理やり例えるなら、そんなところだろうか。

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