033:ダンジョンは人間の養殖業だと思う。
B3F『終点』
その奥の扉を抜けると1つの道が続いている。
そのまましばらくその道を進めば、3つに枝分かれする分岐点へと辿り着く。
俺は迷わず真ん中の道を進むが────
『キャハハハハハハハ』
右の通路から甲高い女の笑い声が響いくる。
『家畜部屋』のある方だ。
馬鹿騒ぎしているかのような声。
うるさいなー。
今回新たに家畜増えたし、これからもどんどん増えていく予定だから防音対策しないとだわ。
不快すぎる。
ま、急ぐ必要はないけど。
そんなことを考えながら道を進んでいくと、部屋の扉が見えてきた。
俺にとっては天国への入口のようにすら見える。
「ただいま〜ルル〜。あー疲れたー」
「ギシ、おかえりっすボスー。───アタァッ!」
「いやなんで。なんでお前がお出迎え? ルルは? ルルはどうしたんだてめぇこら」
すると部屋の奥からルルがとことこやって来た。
神でさえ平伏する可愛さだ。
「にゃー」
「あ〜ルル〜。お前はどうしてそんなに可愛いだろうな〜」
俺の前でちょこんとお座りするルルの頭を撫でながら、心が癒されていくのを感じる。
悪戯に撫でるのを止めてみれば、ルルは自ら頭を俺の手に擦り付けてくる。
あぁ……可愛すぎて死ぬ……………。
それだけでも十分幸せだというのに、ルルはコロンと転がりお腹を見せてきた。
撫でて欲しいらしい。
可愛すぎ、爆死。
ちょこんと曲げた前足とかマジでヤバすぎ。
「るいー なでてー」
うわぁぁあああああああ。
なにこれ、え。
反則すぎなんですけど。
キュン死しかけたんですけど。
「しょ、しょうがないなぁ〜ルル〜」
何もかもを忘れて、俺はルルのお腹を優しく撫でる。
この時、右脇腹の方を撫でてやるとルルは俺の手に前足を添えてくるのだ。
これはルルの癖の1つ。
あぁ天使だ。
あんな見かけだけのやつより断然天使。
しばらく幸せを噛み締めながら撫でていると、クイッとルルは起き上がった。
「おなかすいたー」
「うん、ルルはドライだな〜。でもそういうところも好きだ〜。ルルの嫌いなところを1つ挙げないと死ぬとしたら、俺は間違いなく死ぬことになるだろうな〜」
はぁ〜。
この世界にルルがついて来てくれて本当によかったなぁ〜まったく。
あの馬鹿のせいで精神的に凄い疲れていたのが嘘のように消えていくわ〜。
「ルルはアイツと違ってお利口さんだな〜」
「にゃー」
「にゃー」
「…………」
しかし、癒された精神はすぐさま汚染されてしまうこととなった。
俺の真後ろから聴こえる『にゃー』というふざけた鳴き声によって。
「にゃー………モギャッ!!」
「なーにやってんの? 死ぬの?」
四つん這いになり、なぜか猫のモノマネをしているシエルだ。
なんか無性にイラッとしたので思わず手が出た。
まったく後悔はしていない。
「イテテ……何するんですかマスター、酷いです」
「いや、は? なんで叩かれたの私みたいな顔よくできたな。ここは俺の部屋。無断で入ってきてんじゃねぇよ殴るよ?」
「だ、だってズルいじゃないですかそのゴブリン!! 私とゴブリンの違いはなんなんですかマスター!! 答えて下さいマスター!!」
「妙な言い方するんじゃないよ。コイツも無断で入ってきてんの」
「ギシッ!? 酷いっすよボス〜。オイラとボスの仲───」
「おいゴブリンてめぇ。何マスターと仲良さげに喋ってんだよ。燃やすぞゴラァ」
「ギシ……シ……あはは……はは…………」
「いやテメェもだよ。ここは俺とルルの部屋なの」
「にゃー たのしー いっぱいいるー」
「おぉ〜ルル楽しいのか〜。よし、お前ら居ていいぞー」
「「えっ」」
突然部屋に居ることを許可され戸惑う2人。
だが───
か、可愛いぃぃ。
猫を愛でるマスター可愛すぎるぅぅ。
何これ最高かよぉぉ。
永遠に見ていられるぅぅ。
先程までとは別人のように猫を優しく撫でる自らの主の姿を、頬が落ちんばかりにだらけきった表情で見つめながらシエルはそう思った。
にへらぁと不格好に開かれた口元から唾液が垂れなかったのは運が良かったからに他ならない。
「あっ!! ルルお腹すいてるんだったなぁ〜。待ってろ、すぐ持ってくるからなぁ〜───って、お前らまだ居たのかよ」
「にへ、にへへ。ますたぁかわいすぎるぅぅ」
「うわぁ……何こいつキモっ」
「ボスっ! オイラはいいっすよね〜、いつものことっすからね〜」
「んーまぁ、ルルの面倒見てくれたしなー。うんいいぞー」
「えぇぇえええっ!? マスター私よりそのゴブリンを選ぶなんてどんな性癖してるんですか!!」
「だから……あぁ、しんどい。お前も居ていいよ」
「よぉぉおおしゃぁぁあああ」
「…………」
コイツと居ると軽く2倍は疲れる。
深いため息と共にそう思った。
すると、扉の向こう側から重い足音とガチャガチャという音が聴こえてきた。
それが誰のどういうものかすぐに理解した俺は馬鹿な天使を押し退けて玄関の扉を開けた。
扉を開けるとそこには予想通り山のように積まれた戦利品が、そしてももたろうと豚キムチの姿があった。
「おー悪いな〜いつも」
「もったいないお言葉です」
「で、出番なくて暇だったんだな、うん。でも、おでは戦うのあまり好きじゃないから別にいいんだな、うん」
「今回はかなり弱い人間共だったからなー。ま、拍子抜けするぐらいがちょうどいいって」
「我が主、捕獲した人間はどこに連れていけば?」
「あ、そうだったな」
俺は緩む頬を隠せない。
今回ついに2回目となる家畜の捕獲に成功したのだ。
しかも7人。
今後の運営がうんと楽になる。
「変に繁殖されると気分悪くて吐きそうだから部屋と檻増やしとくわ。そこに頼む。当然だが、身ぐるみ全部剥いだよな?」
「すでに」
「に、人間は小さいんだな。おで苦手だけど、頑張っだんだな、うん」
「あぁ〜さすがだなぁお前ら。ありがと。マジで優秀。優秀すぎるわー。コイツらとは大違いだ……」
俺は光の消えた目で背後に目を向ける。
そこに居るのはなぜか猫の餌を物珍しそうに眺め、ついにはそれをひとつまみ食べようとしてルルにひっかかれ喚いている天使と、それを見て笑いこけているゴブリン。
はぁ。
緑山はまだ許せる。
値段相応のやつだった。
だがシエルの方は許せない。
断固として許せるものではない。
割引で100万になったとはいえ元は1000万DPだぞ。
命令は無視するしなにより幼稚。
あまりにも未熟な精神。
しかしその能力だけは優秀。
まるでマシンガンを持った子供だ。
厄介なんてものではない。
───でも、まあいいか。
不思議と本気で嫌いにはなれない自分が嫌だな。
さて、今回の戦利品確認しよーっと。
++++++++++
獲得DP:177724
殺害数:23
捕獲家畜数:7
現家畜数:9
現DP:248072
不労DP:3347/h
【獲得アイテム】
・人間の死体×22
・白銀の長剣×19
・白銀の短剣×69
・黒鋼のナイフ×69
・魔銀の長剣×4
・魔銀の短剣×12
・レックの魔杖×6
・バードロンドの魔布×6
・チェインシャツ×29
・黒瀑竜の革手袋×19
・白銀の全身鎧×19
・魔銀の全身鎧×4
・アリアの耳飾り×7
・アリアの首飾り×17
・アリアの指輪×19
・収納系魔道具【カルバナ】×29
・長距離通信系魔道具【エイグル】×2
・映像記録系魔道具【フィルミ】×2
・音声記録系魔道具【サウドラ】×2
・この辺りの地図
・最高級ポーション×7
・上級ポーション×72
・ポーション×216
・高品質衣類多数
・金貨や銀貨が多数
・馬×4
・大きな馬車×2
【獲得スキル】
《斬撃》×4
《刺突》×3
《幸運》
《切断強化》×3
《不可視化》
《危機感知》×2
《敵意感知》
《好情ノ香》
《宮廷作法》×2
《無缼炯眼》
《欺瞞ノ相》
《魔力知覚》
《魔力偽装》
《スプラッシュ》
《エアロステップ》
《ミストフロア》
《バインド》
++++++++++
「クク、ククククククク。素晴らしい。素晴らしすぎる」
「確認終わったんですかマスター?」
「随分と多かったんすね〜今回」
「うむうむ、満足の極み」
PCに今回の戦果をまとめ、確認を終えた俺はものすごく幸福な気持ちなった。
まずは獲得DP───177724ポイント。
……文句はないが、これまでのデータと比べると少ないように感じる。
なんとなく予想はしてたがこうして数字で見ると明らかだわー。
獲得DPって、単純なレベルだけで決まるわけではないんだろうなぁ、多分。
強さや能力、ダンジョンの向き不向きもあるかもしれない。
けど、まあどうでもいいわ。
この考察はしんどいだけで答えなんてなさそう。
───しかーし。
分かりやすすぎる答えというのもある。
それは、人間捕獲により得られる不労DP。
クククククク。
やはり俺の考えは間違っていなかった。
ダンジョンってのはまさしく人間の養殖業だ。
今回でうちのダンジョンで飼育している家畜の数が『9』となった。
それにより得られる不労DP───1時間あたり3347ポイント。
1日あたりでいうと約8万ポイント。
8万ポイント、8万ポイントである。
控えめにいって最高すぎる。
どうもダンジョンってのは“人間を招き寄せる”ようにできてると感じる。
なぜなら『カタログだよん♧』には魔物や罠の他に『岩塩【大】』なるものもあるからだ。
この世界で塩化ナトリウムがどれほどの価値かはわからないが、これは紛れもなく資源だ。
本来は、こういったものを餌に人間を誘き寄せ殺す。
これがダンジョン運営の典型なのではないだろうか。
ま、俺には関係ないけど〜。
人間を捕獲し薬漬けにして管理、養殖する。
うちのダンジョンの方針はこれだな。
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