002:えっ、なんか翼が……。
こんな話を聞いたことがあるだろうか。
猟奇的な殺人鬼などの狂気の思考を持つ者が、ある日忽然と世の中から姿を消すことがあるという。
それはなんの前触れもなく訪れ、社会もそれに気づけない。気づいた時にはすでに大半の人間がそのことを忘れている。
そして、その者達の行先は──── あなたのいる世界とは異なる全くの別世界。
別の世界で人間の数を調整するための、とある神の悪ふざけな遊戯に巻き込まれるという、そんな話。
─── あなたは、信じますか?
++++++++++
イテテ……。
目が覚めると、身体中がありえない程痛かった。
全身が尋常ではない筋肉痛というか、いや違うな、これはそんなものじゃない。
─── 全身が作り変えられたような、そんな感覚だ。
頭もぐわんぐわんと痛みが響く。
起き上がるのも億劫だが、何とか心を奮い立たせて起き上がる。
俺の原動力となっているのは─── 底なしに湧き上がる膨大な疑問だ。
さて、ここはどこだろう。
見渡せば、ここは真っ白な部屋だった。
いや、少し違う。
多少変わっているが、ここは俺の住んでいたマンションの一室だ。
広さは六畳くらい。
シングルベッドがあり、カーペットがあり、ソファーがあり、窓……無いな、テレビ……も無くなっている。
この感じからすれば、扉の向こうには見慣れたキッチンと冷蔵庫と洗濯機、そしてユニットバスがあることは間違いないだろう。
あとはPC(Ma○Book Pro)があるだけの、真っ白な部屋だ。
天井が白くぼんやりとした光を放ち、部屋全体が照らされ明るい。
この部屋の全貌はこんな感じ。
だが、未だ理解出来ていないことがほとんどだ。
まず、なぜ俺はここにいるのか?
たしか、俺は────
「にゃー」
自身の最後の記憶を辿っていたそのとき、聞き慣れた鳴き声が聞こえた。
とても聞き慣れたその声。
何よりも心が安らぐその声を、聞き間違うはずがない。
思わず勢いよく振り向くと、そこにはちょこんとお座りする、ルルの姿が。
クリッとした蒼い瞳。
艶やかな純黒の毛並み。
間違いない。
あぁ、あぁ…………。
「ルルっ!!」
俺は勢いよくルルを抱き上げる。
そして思いきり抱きしめた。
「ごめん。ごめんよルル。本当にごめん、もう二度とお前を一人にしないから」
涙が溢れて止まらなかった。
「にゃ……にゃ《とう……くる…し……》」
「あぁ、ごめんよ思わず……って……え?」
今─── ルル、喋らなかったか?
馬鹿みたなことかもしれないが、確かに俺には聞こえたんだ。ルルの声が。
今の俺の精神状態は絶対に正常ではない。
だから俺の気のせいという確率の方が高い。
だが、確かに聞こえたんだ。
途切れ途切れの聞き取りずらいものであったが、確かにルルは今「苦しい」と言った。
「ルル? もしかしてお前……喋れる……のか?」
意を決して、俺は素直に聞いてみた。
もしここに第三者がいれば俺を馬鹿みただと笑うだろうが、知ったことか。
俺にとって何よりも確かめなければならないこだ。
もし……ルルと話せるのなら…………。
「にゃー」
だが、そんな俺の願いはあっさりと掻き消された。
「─── はは、だよな。お前が喋れるはずがないよな。俺は何してんだか。意味わからんことが一気に起こりすぎて、疲れてんのかな」
俺は全身の力を抜き、勢いよくベッドに背中から倒れ込む。
バサッ
ん?
背中に違和感があった。
今まで味わっことのない感触、というか感覚だった。
無視できるようなものでもないので、俺は再び起き上がり、身体を仰け反り、背中の方に目を向ける。
そこには────
─── 見覚えのない漆黒の翼が。
は?
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