014:月ヶ瀬 類くん……だよね?

 

「転校生の月ヶ瀬ツキガセ ルイくん……だよね?」


「─── ん、そうだけど」


 ボクは学校が終わると、すぐに一人で帰る。

 最近教室にいると、すごく気分が悪いからだ。

 なんだか頭痛もするし、目眩もするし、吐き気もする。

 なんでだろう、わかんない。


 転校が多いせいかな?

 ボクはもう何度も転校を繰り返しているし。



 親の仕事の都合………と、たまに



 だから正直、一人でいることには慣れている。

 友達を作っても意味がない。

 どうせすぐにお別れしちゃうから。

 きっと二度と会うこともないと思うし。

 そんなこんなで、今日もボクは一人で一番最初に教室を出る。

 友達なんていないし、作る必要も感じないし、気分も悪いから。


 …………だけど今日は、少しだけいつもと違った。

 ボクが教室から出ると、ボクのあとをついてくる子がいたんだ。

 話しかけられませんように、と願いながら若干歩調を早めて帰り道を歩いていると、話しかけられた。



 ほんと、神様なんていないんだなーと思う。



 改めて、ボクは話しかけてきた子を見る。

 多分……同じクラスの男の子。

 んー見た事あるような、ないような。

 そんなに特徴もないような男の子だ。


「ボクに何か用?」


「いや、あの……特に、用ってわけじゃないんだけど……」


「そう。じゃあボクは帰るね」


「あっ! 待って! あの、き、君と友達になりたいんだっ!」


 ─── ふーん。


 あー、思い出した。

 うちのクラスの委員長とかやってる子だ、この子。


 この子はあれだな。

 他人をほっとけないタイプの子だ。

 そういう子って一見性格良さげに見えるけど、内心自分がクラスの中心にいることに酔っているんだよなー。

 そして人に仕切られるのが嫌な人間。


 誰かに感謝されたり、頼られることに一番の幸せを感じて、自分は誰かの役に立つ人間なんだと証明したい。

 誰からも頼られたいって気持ちがこの子の奥底にはあるから、ボクみたいな一人でいる子をほっとけないんだな。


 なんて言うのかなーこういうの。

 前に本で読んだな、なんだったっけ。

 あーそうだ、承認欲求だ。

 承認欲求の塊なんだ、この子は。

 そして支配欲求も少々……かな。


 だからこういう子に一番いいのは、頼りにされていると思わせてあげること。

 感謝の言葉を告げて、この子の承認欲求を満たしてあげることだ。



 そうすれば、ボクはこの子から解放される。



 ─── あぁ、気分が悪い。



 早く解放されたい。



「ボクと……友達になって、くれるの?」


 ボクはできるだけ嬉しそうに、期待して、声をかけてくれるのをずっと待っていたかのように、そう言った。


「うんっ! 僕で良ければ! 君のことがずっと気になってたんだ! あのね、実は僕面白いものを持ってきたんだよ! ちょっと今から公園に行こう!」


「…………」


「ん? どうかしたの?」


「う、ううん……。行こうか!」


 上手くいかないなー。

 なんでこう上手くいかないんだろ。

 公園行くことになっちゃったよ……。

 はぁ……。

 まぁいいか、もうちょい頑張ろー。



 …………。


 

 …………。



 …………。



「あっ見つけた! ちょっとここに来て!」


「う、うん……」


 この子の名前は、あつき君というらしい。

 公園に来るまでにいろいろ喋った。

 …………正直、しんどい。

 なんでこんなことに……。

 早く帰りたいー。


 えーっと、これは…………


「アリ……?」


「そうそうっ! アリの行列っ! 面白いよねーアリの行列を見るのっ!」


「……そ、そうだね……」


 やっぱり……。

 すっごい共感を求めてくる。

 こういうタイプの子って……。


「だけどね、これを使うともっと面白いんだよ! この前理科の実験で使ったんだー!」


 そう言って、あつき君が取り出したのは『虫眼鏡』だった。

 たぶんその実験とやらはボクが転校する前のことだと思う。

 一切記憶にないから。

 虫眼鏡を何に使うんだろ……?


「あのね、虫眼鏡を太陽にかざすと、黒いものは燃えるんだよ! だからね、こうやって…………」


 あつき君は、虫眼鏡を太陽にかざす。



 そして、太陽の光を一匹のアリに集めて───



 ─── 燃やした。



 …………。



 …………。



「ねっ! 凄いでしょ! アリが燃えるんだよ!」


「…………」



 …………ほんと、気分が悪い。

 笑顔を浮かべるのももうしんどい。

 吐き気がする。

 頭が痛い。



「ねぇ、それボクもやってみていい?」


「うん! いいよっ! はいっ!」



 ボクはあつき君から虫眼鏡を受け取る。

 もーっと面白い遊び思いついちゃったー。

 黒いものは、なんでも燃えるのかな?



「ありがとう、じゃあボクもやってみるね」


「うんっ! 燃えるとこ見るのってな───── アアアアァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」



 

 ボクは太陽の光を───




 ─── あつき君の右目に集めた。




「本当だぁー、黒いものって燃えるんだねー」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!! ─── ヤッ、ヤメッ、ヤメロォォオオオオッ!!!!」


 ボクはあつき君を押し倒し、馬乗りになって、動けないようにする。

 そして右目を無理やりこじ開けて、光を当て続ける。


 しばらくはバタバタと暴れていたけど、途中からあつき君は動かなくなった。

 多分、気を失ったんだと思う。

 死んではいない……かな?

 右目は見えなくなっただろうけど。



 ─── はぁ。



 本当に吐き気がする。

 一つの命を奪ったんだから、右目ぐらい安いものだよね?

 あつき君は、アリ一匹の命を奪ったんだからさ。




 あ、分かっちゃったかも。




 ボクはこういう人間が─── 嫌いなのかもしれない。




 うーん、また転校しないといけなくなっちゃった。

 




 お父さんに怒られるなー。




 ++++++++++




 ………………んあ?



 ここは、えーっと、あ、俺の部屋の風呂場だ。

 今のは夢……か。

 懐かしい夢を見たな。

 小学生くらいか。


「ギィ!!」


 憎たらしい悪餓鬼のような声を聞き、俺はふと横を見る。

 すると、俺の翼にシャワーを当てているゴブリンが目に入った。

 一瞬、コイツなにやってんの?と思ったが、よく見ればその翼はあの人間の女に魔法で凍らされた翼だった。


「おーサンキュー」


「ギィ、キギィ!」


「あぁ、テメェ! やめろっての! あーもうビシャビシャだよー」


「ギギィー! ギッシッシ」


 お礼を告げたら、ゴブリンの野郎はあろうことか俺にシャワーを向けてきた。


 あつっ! あちっ!


 俺のリアクションに満足したのか、ギッシッシとゴブリンは笑みをうかべてやがる。

 コイツ……あとでおぼえてやがれ。


「シャーッ!!!!」


 次はルルの声が聞こえてきた。

 何かに威嚇しているな。

 後ろを見ると、お風呂のドアが開いていてルルの姿が映る。

 毛が逆だっており、重心がやや後ろの威嚇のポーズ。

 これは……何かを怖がっている時のルルだ。


 俺はすぐさまその正体を確認するために起き上がった。


 そこに居たのは、



「グ……グゥ……ガ……」


「ブォッ……」



 玄関から部屋の中を覗き込む大鬼と、豚の化け物の姿が。



「お前ら怖えーよ。ルルー大丈夫だぞ〜」


「シャーッ!!」


「グゥ……《もうし……せ……》」


「ブォッ……」


 なんだか、オーガとオークは困っているような感じだ。

 悪気はないのだろう。

 怖がられたくないのに、怖がられてしまって困っているというか。


 はは─── 不器用な奴らだ。


「お前らが俺を看病してくれたのか。ありがとうな」


「グゥ!」


「ブォッ!」


「ギィッ!? ギギィ! キギギギィギギィ!《おれが……ば……がん……た!》」


「はいはい、分かったから」


「ギギィっ!?」


 何やらゴブリンの主張が激しい。

 分かってるっての。

 お前らには感謝してしきれねぇよ。

 本当に、ありがとうな。


「グゥグゥ!」


「ん? どうしたオーガ。─── おぉ、これは」


 よく見れば、玄関から覗き込むオーガとオークの足元には、今回の『戦利品』が山のように積まれていた。


 少しだけ、その量にニヤけてしまう。

 頑張ったからなー俺。

 うんうん。

 このくらい貰って然るべきだ。






 さて、リザルトといこうか。

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