015:もう綱渡りは嫌だわ、怖いし。

 

 俺は子供のように期待に胸をふくらませながら、揚々とPCを起動する。

 なんか、オーガとオークも気になるのか玄関からこちら側を覗いてる。



 …………相変わらず顔怖えーよ。

 …………落ち着かないわ。



「にゃー」


「ギギィ」


 そして、ルルとゴブリンは俺と一緒にPCを見ている。

 可愛いからルルの頭を撫でる。

 からのゴブリンの頭を引っ叩く。


「キギィッ!?」


 シャワーをぶっかけてきた仕返しだ。

 というか、部屋だいぶ荒れてんなー、十中八九コイツの仕業だろうが。

 シャワーの存在に気づくまで、必死に俺の翼の氷を溶かす手段を探し回ってくれたんだろう。

 よく気づいたよ。



 ─── 本当にありがとな、まじで助かった。



 コイツらにはだいぶ愛着も湧いてしまった。

 できればコイツらを死なせたくない。

 そのためにも…………




「ダンジョンを強化しねーとな。もう綱渡りは嫌だわ、怖いし」



 

 今更ながら本当よく生きてるなー俺。

 マジでダンジョンが予期せず開放されて、侵入者が一気に6人も来た時はさすがに死んだと思ったわ。

 ヤバすぎだろアレなんなん?

 今思い出しても腹立ってきたわ。

 なんで開放されたん? 俺のダンジョン。


 しかも罠もなし、俺の武器包丁。

 敵はフル装備の冒険者6人。


 ヤバくね? 俺ほんとよく頑張ったよな。


 一番ヤバいのはあの女ね。

 魔法使ってたやつ。

 ガチで怖すぎ、アレなに。

 気づいたら目の前が凍り始めたのよ?

 どうしろっての?

 魔法恐怖症だわマジでー。



 ─── さて。



 そうこうしているうちにPCが起動する。

 俺はデスクトップにある唯一のアイコンをクリックした。






 【Menu】

・ステータスだよん♢[New!!]

・配下情報だよん♤[New!!]

・知識だよん♡

・カタログだよん♧

・スキルだよん☆[New!!]






 うん、なんか『スキルだよん☆』ってのが追加されてる。

 そして今回から[New!!]というのがついてる。

 新着情報がわかりやすいな、ありがたい。



 んーどうしようかな、まずは…………



 俺は─── 気になって仕方ない『スキルだよん☆』をまずクリックした。




 《チェインライトニング/連鎖する稲妻》


 《ドラゴニックアロー/竜の一矢》


 《斬撃》


 《剛防壁》


 《雷光加速》


 《索敵範囲》




 おぉーっ。

 何コレ感動。

 どうやってゲットしたん?

 アイツらか?

 てかそれしか考えられんけど。


 えーマジか。

 侵入者を倒すとスキル手に入んのか。

 すげーこれは感動だわ〜。

 いい歳しててもやっぱテンション上がるなーこういうの。


 手に入ったスキルは6個。

 んー普通に考えたら、侵入者1人につき1個って感じか?


 …………あ。



 ま、ま、ま、まさかッ!!

 俺は気づいてしまった。



 ─── 魔法が使えるかもしれない、ということに。



 1人につき1個のスキルが手に入る、という仮説が正しいならば、あの女のスキルも手に入っていることになる。

 おーマジかよマジかよ。

 魔法の脅威を体験したからこそ、テンションの上がり方が半端ないんだけど。


 どうしよー。

 あの氷みたいの使えたら無敵じゃね?

 ガチで無敵じゃね?



 …………残念ながら、氷っぽいのなさそうだけど。



 ま、まぁいいや。

 俺はとりあえず、上から順々にクリックしてみた。




 チェインライトニング:雷魔法。2対の連鎖する稲妻が敵を薙ぎ払う。その威力は術者の魔力量に応じて変動。


 ドラゴニックアロー:弓スキル。竜の力を宿した矢を放つ。その威力は使用者の弓の熟練度に応じて変動。


 斬撃:剣スキル。斬撃系の攻撃に補正。攻撃力、切断力ともに上昇。


 剛防壁:防御スキル。ダメージを軽減。発動のタイミングにより、完全反射することも可能。


 雷光加速:移動スキル。身体的速度、神経伝達速度ともに一時的に加速。


 索敵範囲:一定範囲の索敵能力を一時的に上昇。使用者の熟練度に応じて範囲拡大。




 …………うん。

 相変わらず説明は最低限だけど、大まかにはわかるな。

 このスキルを見る感じだと、やっぱり1人1個のスキルが手に入るという仮説が濃厚……かな。

 魔法を使う奴、ごっつい防具つけた奴、剣を持ったやつ、身軽そうな奴、弓を持った奴…………うーんあと一人が思い出せない。


 まぁいいか。

 もう済んだことだし。

 でもこれはありがたいわー。

 生存率がだいぶ上がった気がする。


 さーて、ここからが悩みどころだわ。



 ─── 誰がこのスキルを取得すべきか。



 うーん。

 今後のことを考えたら、配下の魔物に覚えさせた方がいいだけどなー。

 最終的にはできるだけ俺は戦わない方が良いわけだし。

 だって死にたくねーもん、俺。

 せっせと〈コミュニケーション〉のレベルでも上げて、一日中ルルとお話でもしながらのんびり過ごしたいのよ。


 それでゆくゆくは強ーい配下をたくさん集めて城塞都市ヴァルグラムを乗っ取る。

 これが理想……だけどそーもいかねーんだろうなー。

 しばらくは俺も戦わないといけない、ってのが現実だろう。

 俺のダンジョン、まだ一階層しかないし。

 今回手に入ったDPはまだ確認してないけど、たぶんこれで絶対の安全が手に入るわけもない。



 …………。


 …………。


 …………。



 よし。

 俺も覚えるか、スキル。

 よくよく考えたら俺って今、包丁で斬りつけるくらいしか自衛手段ないし。

 しかも俺の一番の武器って地味ーに魔力なんだよなぁー。

 唯一評価Cだし。


 あっ精神ってのがAで最高だったか。

 一番使えねーよ。

 なんだよ精神って。

 別にいいけど。


 うん、いいなこれで。

 俺の判断は間違ってない……たぶん。

 本当に大丈夫か? いいよな、これで。

 いざ決める時ってなんか躊躇っちゃうよなー。

 こういう時すっごい不安なるの俺だけじゃないよね。


 いいやもう決めよう。

 一応、ぼんやりとだがダンジョンの経営構想も見えている。

 配下の今後の創造と育成の方針も割と固まってきている。



 そうすると俺が覚えるべきスキルは───



 《チェインライトニング》


 《斬撃》


 《雷光加速》



 この3つだな。

 うっし、決まった。

 決まったらもう即行動に移そう。

 次の侵入者が来るかもしれないし、ウジウジ迷ってる時間もない。



 …………さーて、どうやったら覚えられるんだろう。



 分からないから、とりあえず説明が表示されている《チェインライトニング》をもう一度ダブルクリックしてみた。



・ルイ


・ルル


・オーガ


・オーク


・ゴブリン



 すると、5つの名前が表示された。

 そう5つ……5つ…………。

 えっ5つ!?

 はっ!?

 ルルも覚えられんの!?

 マジで!?

 ルルもカウントされてるとか、ほんとどういうシステムなんこれ?



 分からんわー。

 いつかルルも戦ったりして。



「にゃー」



 ─── いやねーよ。

 俺がそんなこと絶対させねーよ。



 なんならダンジョンの核よりルルの方が大事だからね? うちのダンジョンは。

 ルルを中心に世界は回ってるから。

 そこんとこよろしく。



 よし、まあいいや。

 俺は『ルイ』をダブルクリックした。

 すると───《チェインライトニング》が画面上から消えた。

 …………え、終わり?

 全然実感ないんだけど。

 うーん、分からんけど後で試してみるかな。


 とりあえず今はスキルを振り分けてしまおう。

 それから俺は《斬撃》と《雷光加速》を自分へ。

 《剛防壁》をオークへ。

 《索敵範囲》をゴブリンへと振り分けた。

 オーガには悪いけど今回スキルはなし。

 《ドラゴニックアロー》は保留。

 うちのダンジョンにまだ弓使える奴いないし。


 うんうん、満足。

 すごい満足。

 これは死にかけた甲斐があった……かはまだ分からんけど俺は満足してる。

 能天気すぎか?



 ─── 次に行こう。



 俺は『ステータスだよん♢』をクリックした。





 名前:ルイ

 種族:魔王【堕天種】

 Lv:4

 クラス:包丁剣士

 攻撃:D

 防御:E

 魔力:C

 敏捷:D

 精神:A

 DP:14042


【エクストラスキル】

〈コミュニケーション:Lv.7〉


【スキル】

〈魔素吸収〉〈ダンジョン生成〉〈領域〉〈配下創造〉〈物質創造〉〈飛行:Lv.14〉〈チェインライトニング〉〈斬撃:Lv.1〉〈雷光加速〉





 おーレベル上がってる。

 しかもDPめちゃくちゃ増えとる。

 一気に大富豪だわー、宝くじ当たった気分。

 アイツら強かったんだなー。

 単純計算一人あたり……Lv.23っ!?

 強っ。強すぎっしよっ。

 なんで最初からこんな奴ら来んのよ。

 完全にアテが外れたわー。


 全然強いやん、この辺りの冒険者。

 まぁ、もう仕方ないな。

 頑張るしかないわ。


 そしてスキルもちゃんと追加されてる。

 なんか嬉し。

 どうしよ嬉しいわ。

 やっぱ実際に目に見える形で結果が返ってくると、実感があるよなーうん、感動。



 …………。



 …………でも、何?『包丁剣士』って。

 めちゃくちゃダサいし心外なんだけど。

 変えたい、変えたすぎる。

 チェーンジッ!! チェンジでお願いしますッ!!



 ……よし、諦めよう。

 もう俺、これからも包丁で頑張るわ。

 意外と扱いやすかったし。



 あ、そういえばレベルが上がってんのは俺だけなのかな?

 配下の魔物もレベルアップしてたりするんか?

気になった俺は『配下情報だよん♤』をクリックしてみた。




・オーガ:Lv.14


・オーク:Lv.13


・ゴブリン:Lv.15




 ─── 少し落ち込んだんだけど……。

 なんだよ、主の俺より全員レベル上がりやがって。

 ゴブリンなんか今回戦闘には一切関わってなくね?


 俺一番働いたのに一番レベルが上がってないんだが……どういう仕組みなんだよ……。

 …………うーん、まあ、なんとなく分かるわ、分かってしまうわ。

 俺ってすっごいレベル上がりにくいんだろうな、どういうわけか。


 そしてこれまた予想でしかないが、ダンジョン内で外の生物を殺したら、俺ら全員にその恩恵があるんだろう。

 これは素晴らしい。

 すごく素晴らしい。

 今後の育成がだいぶやりやすくなった。



 最後に今回手に入った道具。



・アルテナンの長杖

・オルランダのローブ

・鋼の長剣

・鋼のアックス

・鋼の短剣×2

・鋼の軽鎧

・鋼の重鎧

・弓と矢が数本

・鉄のナイフ×7

・ヴァルナの魔導書

・その他書物数冊

・黒雷狼の籠手

・黒雷狼の手袋

・黒雷狼のレザーブーツ

・その他衣類多数

・装飾品多数

・ポーション×17

・上級ポーション×4

・金貨や銀貨などの硬貨が数枚

・少量の携帯食糧と水

・人間の死体×6



 うん、大量大量。

 今は一応衣類は洗濯してる。

 それ以外は後で詳しく調べてみよう。

 興味を引くやつも結構あるし。






 ─── さてさて。

 あらかた今回のリザルトも確認できた。

 現在のDPは14042ポイント。

 まず1番最初にすべきはダンジョンの大規模強化だろう。

 罠もないし、階層も一階層しかない。

 不安すぎるわ、こんなん。


 とりあえず階層を増やそう。

 これだけあるなら多分余裕っしょ。





 階層追加[20000]:ダンジョン内にB2Fを追加する。





 …………。



 …………。



 …………。



 フ○ッッッッッッッッッッッック!!!!!!!

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