016:少しはダンジョンっぽいダンジョンに。

 

「ふあぁ〜生き返るわぁ〜」


「ギィィ〜」


「にゃふ〜」


「……って、なんでまたお前はふつーに一緒に入ってんだよ」


 ペシッ


「ギィッ!?」


 はぁー、風呂に入る時間すんごい延びたわー。

 だって今の俺には翼があるからね。

 翼まで洗うのめちゃくちゃしんどいのよ。

 まぁ、ゴブリンに洗わせるというのを思いついてからはコイツに洗わせてるんだけど。


 すると、なんかコイツお風呂気に入ったみたいでちょくちょく入って来んのよ。

 俺とルルの憩いの一時なのに。

 まぁ、いいんだけどな。


 ちなみに、ルルは猫なのに珍しくお風呂が好きだ。

 初めてお風呂に入れたときはめっちゃ水を怖がってたんだけど、今俺の目の前にプカプカと浮かぶアヒルちゃんに出会ってからはどんどん慣れていった。

 あー懐かしいなぁー、ほんとに。


「にゃ、にゃ、にゃー」


 可愛すぎる。

 プカプカと浮かぶアヒルのおもちゃを、ルルはそのキュートすぎるお手手で何度も沈めて遊んでいる。

 あー、俺これだけで生きていけるわー。

 この残酷な世界を生き抜けるわー。



 ふぅー。



 さて。



「そろそろあがるか」



 俺は湯船から立ち上がる。

 そんなにゆっくりもできない。

 油断するのはよくないっしょ。

 あの戦闘でそれはほんと学んだわ。






 ……とは言ってもあれから1週間、全然侵入者来ないんだけど…………。




 ++++++++++




 今考えれば、どんだけ俺運が悪かったんだって話だよなー。

 ダンジョンいきなり解放されて、10分後には6人も侵入者が来るとか。

 マジで意味不明なんだけど。

 最初からこのくらいの余裕が欲しかったわー。

 それならもうちょっと心のゆとりもあったってもんでしょ。


 あ、そうそう。

 そういえば最悪な事実が判明した。

 あの侵入者、全員Eランクの冒険者だった……。


 死体を調べたら、全員めちゃくちゃ『E』って刻まれたプレートみたなのを持ってたのよ。

 ありえないでしょ。

 これでE?

 信じられない。

 俺だけ難易度Extreme級に設定されてるとかないよね?


 記憶が正しければ、確か冒険者ってFからSまであったはずだから……。

 ……はぁ?

 アイツらで下から2番目?

 とんでもないわ〜。

 ならSって何よ。


 スーパー〇ンとかそういう類?

 あ、ダメだわ。

 現実離れしすぎて想像すらできない。

 うわー、そんなやつが今来たら潔く死ぬしかないわー。

 無理すぎるわ本当に。



 まぁ、そんときがきても絶対にルルだけは守るけど。



 うし、悲観しすぎんのもよくないな。

 今できることをやろう。


 俺は玄関を出る。

 すると、そこには2つに枝分かれした通路が続いている。



 ふふふっ。



 そう、だいぶダンジョンを改造したのだ。

 部屋も増やしたんよね。

 なんか、部屋を作ると自動的に俺の玄関へ繋がる通路ができる。

 これは便利……なのか?

 侵入者はどっからでも俺の部屋に来れるってことでもあるけど。


 ま、一長一短かな。

 しゃーない、割り切ろう。


 じゃあ、ゆっくり大変身を遂げた俺のダンジョンを見ていこうか。


 まず、B2Fが作れないと分かった俺がカタログを片っ端から目を通して、ついに見つけたのがこれだ。




 フロア倍化[7000]:フロアの広さを2倍にする。1フロアに1度のみ使用可能。




 これよ。

 これけっこういいっしょ。

 B2Fをつくる階層追加が20000DPとかいうとんでも価格なのに対して、これはけっこうリーゾナブルだと思う。

 しかもこれ、ただフロアを2倍するだけじゃなくて『樹海化』までセットだからね。

 700DPお得なのよ。

 かなり得した気分。

 主婦も大喜びね。

 フロア倍化はめっちゃ評価高い。


 それで、倍にした樹海フロアの真ん中に壁を作って、完全にわけた。

 これは俺の魔力を使用してできたから、DPはかかってない。

 あんまり疲れもしなかったし。

 さすが魔力Cは伊達じゃないわ。


 なぜそんなことをしたかというと、侵入者を分断するためよ。

 キッついもん、6人なんて来られたら。


 俺のダンジョンに入って階段を下りると、2つの扉がある。

 そして、その両方にレバーがあって、それを同時に下ろさないと扉が開かないようにした。

 その2つのレバーはけっこう離れた位置にあるから、絶対に1人で2つのレバーを同時に下ろすことはできない。


 それで、2つのレバーを同時に下ろすと2つの扉が開く。

 ただし、その扉の間には地面から壁が現れる。

 つまり、ここで確実に分断できる。

 うむうむ、素晴らしい。


 一応、任意に俺が扉を開けられるようにもしておいた。

 弱そうな奴が1人で来たらもったいないし。

 そういうときは扉を開けて、心から歓迎してあげよう。



 この仕掛けがだいたい300DPくらい。

 意外と安い。



 扉を抜けると、どちらも同じ樹海エリアだ。

 ただし、さっき言ったように中央を壁で隔ててあるから決して合流することはできない。

 そして、この樹海エリアにめちゃくちゃトラップを充実させた。


 剣山付きの深い落とし穴、どこからともなく飛んでくる矢、伸び上がる床、ギロチン、足首から下を刈り取る刃など本当に様々。

 その全てが基本自動だけど、手動に変更することもできる。

 臨機応変な対応ができるからありがたいね。


 そのなかでも俺が特に気に入ってるのは、天井から音もなく放たれる矢のトラップだ。

 基本地面に仕掛けられているトラップに意識をさかせ、不意をつくように天井から矢が放たれる。

 人間の心理の隙間をついたいいトラップだと思う。



 やっとだよなー。

 やっとダンジョンっぽくなってきた。



 まだ1階層しかないけど……。



 もし、トラップで殺せるならよし。

 でも殺せない場合。

 当然考えられる。

 そこで初めて、うちのダンジョンの魔物たちの登場だ。


 多数のオークの壁の出現である。

 あれから配下も増やした。

 種類はまだオークとオーガだけだけど。



 オークの役割は、侵入者の足を止める壁だ。



 そして、足を止めた侵入者をオーガの無数のパチンコ玉投擲によって仕留める。



 もし侵入者が人間である場合、ここで仕留められないのなら相当やばいな、うん。

 人外の領域だろ、完全に。

 ふつーに考えて、マシンガンぶっぱなされて生き残るとかありえんでしょ。



 まぁ、この世界ならそういう人間が普通にいそうで怖いんだけど……。



 この段階で殺せないなら……。

 あとは俺が全力で殺しにかかるしかない。

 その時が来たら、ルルを逃がす準備を整えてから死ぬ気で殺しにかかろう。

 それしかないっしょ、もう。



 そうなりたくねーなー、ほんと。

 そんなことになりませんよーに。



 どちらの樹海フロアにも、俺の部屋に繋がる通路への扉がある。

 もし、俺が殺されたら俺の部屋に行けるわけだ。

 冷蔵庫にあるダンジョンの核を見つけるまでそう時間はかからないだろう。



 はぁー、疲れた。



 ダンジョンをダンジョンっぽくするのにあんなにあったDPをほとんど使ってしまった。

 でも後悔はない。




 フロア倍化─── 7000DP


 入口の仕掛け─── 300DP


 充実したトラップ─── 約2000DP


 オーガ9匹─── 1800DP


 オーク9匹─── 900DP


 パチンコ玉500個─── 1000DP




 合計約13000DP


 現在残っているのは、この1週間の自動回復分にアイツらの死体を還元して手に入れたDPを合わせて─── 1324DP


 うーん、使ったなー。

 盛大に使ってしまった。

 とはいっても、初期DPよりはあるけど。

 このくらいのDPはいざというときのために、残しておこう。


 あーそれと。

 俺もこの1週間けっこう頑張ったのよ。

 アイツらの持ち物もだいぶありがたかった。

 特に『ヴェルナの魔導書』ね。

 アレは読んでてすごい面白いし、俺の"魔法"の練習にもめちゃくちゃ役立ってくれてる。


 そういえば、ステータス確認してないな。

 ちょっと見てみるか。

 この1週間でどのくらい成長できたか気になるし。






 ……てか、ほんとに侵入者来ないな。

 逆に不安になってくるわ。

 なんか不気味だわー、怖いわー。






 これ以上不幸な事は起こらない…………よね?

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