017:緑山、ももたろう、豚キムチ。

 

 うーん。

 侵入者来ないなー。


 まぁいいや。

 来ないなら来ないで、今できるできることを考えよう。

 用心しすぎるなんてことはないでしょ。

 命かかってるんだから。

 ルルや配下を守らなきゃいけねーしな。


「にゃっ。にゃっ」


 ルルは今、お気に入りの鈴ボールとじゃれている。

 うん、可愛すぎる。


 よし、ステータスを確認してみるか。






 名前:ルイ

 種族:魔王【堕天種】

 Lv:4

 クラス:包丁剣士

 攻撃:D

 防御:E

 魔力:C

 敏捷:D

 精神:A

 DP:1324


【エクストラスキル】

〈コミュニケーション:Lv.12〉


【スキル】

〈魔素吸収〉〈ダンジョン生成〉〈領域〉〈配下創造〉〈物質創造〉〈飛行:Lv.Max〉〈変幻飛行:Lv.2〉〈チェインライトニング〉〈斬撃:Lv.7〉〈雷光加速〉〈フォロイングライト〉






 おぉー。

 スキルのレベルけっこう上がってるなー。

 やっぱ嬉しいなぁ、ちきしょう。

 レベルが上がるって本当に中毒性があるわやべぇ。

 そして『包丁剣士』が相変わらずダサい。

 変えてくれー。


 ってか、1個心当たりのないスキルがあるな。



 〈変幻飛行〉



 そう、これだ。

 〈フォロイングライト〉はバッチり心当たりがある。

 これは『ヴェルナの魔導書』に載ってた超初級魔法の1つだ。

 気分転換になんとなく練習してみたら、できた。

 でも本当にけっこう練習したよー。


 だからブォッと光の玉が現れた時はほんと感動したね。

 他にも『ヴェルナの魔導書』にはたくさんの魔法が載っている。

 マジでありがたいわー。

 あの女、ガチで死ぬかと思ったけどこれだけはナイスだな。


 あーあと〈チェインライトニング〉もだいぶ扱えるようになった。

 まだまだ狙った場所にはいかないけど。

 けっこう強いよこの魔法、最高。

 魔法の練習はマジで楽しい。

 これからも暇があるときは、魔法の習得に時間を費やしてもいいかもしれない。


 さて、問題の〈変幻飛行〉だ。

 これはどうやって手に入ったんだろうな。

 んー、あれ?

 よく見たら〈飛行〉のレベルがMaxになってんな。

 条件はこれっぽい……か?


 ということは、普通に考えて〈変幻飛行〉は〈飛行〉の上位互換ってことだよな。

 特に何か変わった感じはないけど。


 へぇースキルのレベルがカンストすると上位互換が手に入るのかー。

 俄然やる気でてきたわ、どうしよ。

 今からでも訓練を始めたい気分だわ。


「にゃー、にゃにゃー《るいー、おなかすいたー》」


「あーごめんよルル。今持ってくるからな、お前の大好きな猫缶」


 それと、この1週間で起きた変化がもう1つある。

 それは、ルルや配下の魔物の声が完全に聴こえるようになったことだ。


 俺は冷蔵庫から猫缶を1つ取り出し、食べやすいように皿に中身を全て出す。

 そして、ルルにあげた。

 うんうん、食べてる食べてる。

 ルルが食べてるの見るのってほんと癒される。


「ルルー、美味いか〜?」


「にゃー」


 ただ、このようにまだ聴こえない時の方が多い。

 〈コミュニケーション〉が発動さえすれば、完璧に聴こえるという感じ。

 いや〜でもこれはマジでいい能力だわ。

 本当に最高。

 これがもしハズレの部類の能力であったとしても、俺は何一つ卑屈になんてならんわ、いやマジで。


 もう、ルルとの会話が楽しくて仕方ない。

 ずっとルルと話したかったからなー俺。

 ルルに話しかけるのはもう完全に俺の習慣だわ。


 そのおかげもあって〈コミュニケーション〉のレベルもけっこうな勢いで上がってる。

 たぶんだけど、Lv.10を越えたあたりじゃないかなー、ルルの声が完全に聞こえるようになったの。

 レベルの10とか20ってのは、1つの境目だと思う。

 ここで格が1つ上がるって感じがする。


 うんうん。

 順調すぎる。


 あ、そういえば俺の装備もちょっと整えた。

 今は着てないけど、戦利品の1つに軽めの鎧があったから今度から着ることにした。

 サイズが問題だったけど、2DPとかで変更できたからすごい助かる。


 それと、俺が使えるのは鉄のナイフに黒雷狼シリーズの手袋、篭手ガントレットにレザーブーツ………………。

 あれ?


 ふと、不思議な疑問がわいた。


 そういえば、なんで俺これが“黒雷狼シリーズ”だってわかるんだ?

 あまりに自然と頭に浮かぶもんだから、今まで気づかなかったわ。

 よくよく考えたら、俺普通に『ヴェルナの魔導書』がヴェルナの魔導書であると最初から分かってたし、文字とかも読めてるな。

 うーん……。


 …………。


 …………。


 …………。



 そして、俺は結論に至った。


「ふぁんたじ〜」


 きっと、この世界には俺のなかにある程度の理屈では到底理解できないことがある。

 悩むのも馬鹿らしいわ。

 どんどんこの不思議な事実を受け入れていこう。

 そして俺のなかの常識を少しずつ広げていこう。




 ++++++++++




「グゥガッ!!」


「ガァッ!!」


 俺はちょっとダンジョンをまわってみる。

 配下の様子見もかねてだ。

 現在、全ての配下は訓練中。

 ここではオーガたちが『投擲』の訓練をしている。


「グゥ? ……ッ!? グガグガッ!」


「ガガッ!」


「あーいいからいいから。─── "ももたろう"いる?」


 オーガたちが頭を下げ始めたので、俺は手を振って気にしないでいいよーってことを伝える。

 なんか俺最近すっごい尊敬されてるんだよなーオーガとかオークに。

 なんなんだろコイツら。


 しかも、よく観察してみたら若干怯えてるような……。

 なんか微妙に震えてるんだけど……。

 いやいや、お前らの方が何倍も怖いから。


「グゥ、グガグッ《我が主、ここに》」


「おー、悪いなー。『投擲』スキルの習得率って今どのくらい?」


「グゥッ! …………グゥ…………」


「あぁ、いいっていいって。そう簡単にはいかないよなー」


 そうそう。

 最初の3匹には名前つけたのよ。

 死の淵を一緒に乗り越えたからかなー、やっぱ愛着あるわー。

 それにさぁ、ご褒美とかあげたいなぁーと思って何がいいか聞いてみたら『名前をいただきたいです』とか言ってきたのよね。


 美味しい食べ物とかを欲しがると思ったら、揃って名前を欲しがったのよ。

 魔物にとって、名前ってなんか特別なのかな。


 魔物に名前なんてつけたことないからさー、悩んでも仕方ないなと思って、コイツらを見て最初に浮かんだイメージでパッと決めた。




 ゴブリン▷▶︎みどり色 ▷▶︎『緑山みどりやま




 おい緑山ッ!!!!

 テメェ何サボってんだッ!!!!

 って叱りやすい。

 仕事のできない部下みたいで気に入ってる。

 アイツサボり魔だから。

 今もダンジョンの外で《索敵範囲》の能力で警戒させて、敵が近づいたらすぐに知らせるように言ってあるんだが、どうだかな。

 しっかり働いてるかは半々だわ。




 オーガ▷▶︎鬼▷▶︎『ももたろう』




 鬼と言ったらももたろうっしょやっぱ。

 他にあるか? 鬼と聞いて思いつくやつ。

 俺はないわー。

 まぁ、コイツは金棒じゃなくてパチンコ玉ぶん投げるんだけどな。

 意外とハマったらしいよ。

 パチンコ玉投げて人間殺すの。

 スカっとしたって言ってた。

 ……金棒より金棒じゃね?




 オーク▷▶︎豚▷▶︎『豚キムチ』




 コイツは正直ちょっと迷った。

『トンカツ』と迷ったんだよな〜。

 でも俺さ、揚げ物食べるとけっこうな確率で胃がもたれるからそんなに好きじゃないのよね、トンカツって。

 だから豚キムチ。

 美味いよなー豚キムチ。

 ……やべ、食べたくなってきたわ。

 後でDP使って食べようかな。


 一応、名前をつけたコイツらは『幹部』というポジションだ。

 ももたろうがオーガをまとめあげ、豚キムチがオークをまとめている。

 緑山も形だけ幹部なんだけど、部下となるゴブリンはまだ創造してない。

 だから本当に形だけ。

 今アイツに部下なんて作ったら集団でサボりそうだし。



 ─── ふぅ。



 今の俺のダンジョンはこんな感じ。

 かなりいい感じじゃね?

 最初の頃と比べるとマジでいい感じでしょ。

 まだまだ不安はあるけどな。

 高ランク冒険者の襲来とか。

 恐怖しかないわほんと。



「ギィッ! ギィギギ!」



 そんなことを考えていると、ゴブリン、もとい『緑山』が慌てて俺の所にやって来た。

 どうやらコイツは、意外にもちゃんと自分の仕事を全うしてたらしい。

 少し見直した。






 さあ、俺の新ダンジョンのお披露目といこう。






 ─── ん?


 でも、この感覚は…………………………。

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