006:とても素敵で歪んだ夢。

 

 俺は1つの可能性 ──人間や魔物の家畜化── を検証するために、今度は『カタログだよん♧』に目を通していた。

 またもや何時間も時間が経っている。

 これ、定期的にカウントダウンを確認しないと本当にヤバいなー。

 気づけば残り1分しかありません、とかなったらマジ笑えないわ。



『299:34:18』



 結局、これは"ダンジョン解放"までのカウントダウンだろうという結論に行き着いた。

 じゃないと永遠にひきこもるやつとかでてきそうだし。

『カタログだよん♧』を読んで、その線がより一層確信に変わった。


 なぜなら、『ダンジョン経営に直接関係のないもの』は必要とするDPが概ね少ない傾向にあるのだ。


 …………普通逆だろ、生存率上げんなら。

 どんな性格してるんだよ、管理者L。


 例えば、カタログに載っている『モンスター』という項目。

 そのなかで最も安いのは『スライム』というモンスターだ。



 ・スライム[10]:粘液状の低級魔物。一部の上位種には知性が確認されているが、大半のスライムは本能のみで行動。



 見るからに使えなさそうだ。

 特にこの知性がないという点。

 俺の《コミュニケーション:Lv.1》が全く生きない。

 加えて、この10DPというのは安いようであまり安くはない。


 少なくとも、1000+2週間分の自動回復、12×14=168、つまり1168DPしかない現状では。

 やらなければならないことが、モンスターの創造だけではないからだ。

 武器や防具の錬成、フロアの製作もしなくてはならない。



 ───あれ、なんか思った以上にヤバくね……。



 ま、まぁ、そういうこと。

 モンスターは金ならぬDPがかかるということだ。

 その一方で、食べ物を代表とする直接ダンジョン経営に関係ないものは、必要とするDPが2桁を越えるものが基本ない。

 例えばこれ。



 ・ピザ[3]:オーソドックスなやつ。トッピングは別DP発生。



 なんだよ、別DPって。

 別料金みたいに言いやがって。

 しかも説明もあからさまに手抜きされてる。



 ───まあ、俺にとっては好都合だ。



 そして次。次がさらに面白い。



 ・モルヒネ[1]:100g。麻薬の一種。


 ・ヘロイン[1]:100g。麻薬の一種。


 ・アヘン[1]:100g。麻薬の一種。



 これだ。

 ありえないほど安い。

 元の世界でヘロインと言えば、確か1gで大体10万とかで取り引きされてるんじゃなかったか?

 詳しくは知らんけど。

 ちなみに、これ以外にもカタログにはいろんな薬物が載っている。


 んー、まぁ確かにダンジョン経営には関係なさそうだしな。

 冒険者に宝箱を通して渡しても、いきなり得体のしれないものを口にする奴はいないだろう。

 たぶん研究機関行きだ。


 罠としてぶっかける?

 即効性なくてなんの意味もないだろ。


 かといって、俺たち魔王が薬物に溺れれば冷静な思考と判断能力は当然失われ、そいつのダンジョンは間違いなく終わるだろう。

 そんなやつは勝手に死ね、という管理人Lからのメッセージなのだろうか。

 ということで、普通に考えればこの世界で俺たちダンジョンマスターに使い所はない。



 普通に考えれば────だが。



 これで分かった。

 今俺の脳内にある考えは、確実に実現できる。

 侵入者を捕らえることさえできれば。




『侵入者を捕らえ、食事に混ぜて薬物を与え依存症にする。限りなく高カロリーな食料を与え、長期的に思考能力と物理的能力の両方を奪う』




 ───はは。

 これで『人間家畜』の完成というわけだ。


 魔法とかスキルとか、俺はまだまだこの世界について知らないことが多い。

 もしかしたら、"依存症"を一瞬で治す何らかの手段が存在するかもしれない。

 だからできるだけ、ぶくぶくと太らせておこう。

 幸い、食費は安上がりだからな。


 これで、俺のダンジョンから物理的にも精神的にも離れられなくなる。

 ただ俺の糧となるためだけに存在する家畜となる。


 自然と笑みが零れた。

 今まで嫌悪の対象でしかなかった人間だが、ただ俺の糧となる家畜としてなら案外悪くないかもしれないな。

 これからのことに思いを馳せると、少しだけ楽しくなってきた。


「にゃーにゃー《おな……す……た……》」


 そんな浮ついた俺を、ルルは現実に呼び戻す。

 俺の足元で顔を擦り付けてくる。

 ルルがお腹空いてるときのサインだ。


「ごめんよルル、気づかなくて。今持ってくるからな」


 俺は冷蔵庫から異様にたくさんある猫缶をひとつ持ってくる。

 ルルにはいいものをあげたいから、一缶900円もする高級キャットフードだ。


 うんうん、食べてる食べてる。

 可愛いやつめ。


「美味いか〜ルル〜」


「にゃー」


 今度は声が聞こえない。

 やっぱりLv.1ってのが関係してるのかな。

 どうやったらレベル上がるんだろ?


「ルルーもしかしたらな、俺の夢が叶うかもしれないんだ。まあ、まだまだ先のことだし、そもそも生き残れるのかも全然わからないんだけどな。あ、でもお前だけは俺が命にかえても守るから安心しろよ。一緒に頑張ろうな」


「にゃー《がん……ろ……い》」


「おぉ可愛いやつめ、そう言ってくれるか。お前が居てくれるなら、俺はどんなことだってできる気がするよ」


 ルルの頭を撫でながら、俺は自身の心にある『とある夢』を思い出した。

 あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、夢とも呼べないそれを、この世界なら叶えられるかもしれない。

 そりゃあテンション上がるだろ。



 俺の夢、それは────




『人間の居ない国をつくること』




 はは。

 本当に馬鹿みたいだろ?

 明日を生きられるかもわからないこの状況で、こいつは何を言ってるんだと笑ってくれても構わない。

 だが、俺はこの夢を本気で実現しようと思っている。


 何事を成し遂げるにしてもそうだ。

 まずはそこまでの道筋を明確化すること。

 次に細分化だ。

 それから一つ一つ確実に前進していく。

 結局これが一番近道なんだ。



 俺はメモ管理ソフトを起動する。


 そしてそこにこう書き留めた。













 大目標:人間のいない国を作る



 中目標:人間と魔物の家畜化



 小目標:生き残る

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