005:狂気の片鱗。

 

 気づけば俺は、何時間も『知識だよん♡』の情報に目を通していた。

 時計を見れば、軽く20時間以上の時間が経っている。

 ……え、マジか。

 そんな経ってたんだ。

 この身体マジで疲れを全く感じないわー。


 大気中の魔素を吸収し自身のエネルギーに変える能力 ────〈魔素吸収〉

 これはこういうことなのか。

 実感として理解出来た。

 これなら昼夜問わず、ダンジョンへの侵入者を対処することができるというわけだ。

 管理者Lもよく考えている。


 それにしても『知識だよん♡』は思いのほか有益だったな。

 大陸、国、文明、文化、歴史、生物、技術、人間の職業、そして魔法………………

 この世界における情報がかなり詳細に載っている。

 これも俺たちの生存率を上げるためか?

 ステータスの手抜き情報とは大違いだ。

 そのおかげで、知りたいことのほとんどを知ることができた。


 まず、そもそも『ダンジョン』とは何か。

 俺はそこからわかっていなかった。

 わからないものをどう経営しろというのか。

 右も左も分からない俺には、そんな初歩の情報から記載されていた『知識だよん♡』は非常にありがたい。


 でもやっぱり、だよんがうぜぇ。


 ダンジョンとは─── 簡単に言えば、人類に対し"恩恵"と"災厄"の両方を与える存在だ。


 宝箱の財宝という形で、永遠に枯渇することのない資源を与える。

 そして同時に、無限に湧き出る魔物という災厄をふりまく。

 その恩恵のなかでも最も価値がある資源がダンジョンの"核"であり、俺の心臓でもある黒い……………………。


 あっ!!


「にゃー?」


「ルルっ!! ごめんそれはダメなやつだ!!」


 慌てて俺はルルから黒い玉、もといダンジョンの核を取り上げた。

 にゃーっ!! っとルルは怒って俺のズボンの裾をひっ掻いてくるが、さすがにこれは許容できない。


 あぶねーこれ俺の心臓だったんだー。

 少し傷つくだけでもヤバいっぽいのに、ルルのおもちゃにしてたわー。

 ひょっとしたら俺死んでたわー。

 マジで今ヒヤッとした。

 ビルから飛び降りたときと同じくらいヒヤッとした。


 どうしようかな、一番安全なところは……。


 いろいろ迷ったあげく、俺はダンジョンの核を冷蔵庫に入れておくことにした。

 卵置いてる所に一緒に並べておいた。

 冷蔵庫が俺の考えうる、一番安全な場所だ。



 ─── 俺の心臓、冷やしても大丈夫だよね?



 さて、次に俺について。

 というよりは『魔王』という恥ずかしい存在についてだ。

 魔王という存在は自身のダンジョン、さらに詳しく言えば自身の支配領域から出ることができないらしい。

 だが、ダンジョンで発生する魔物は別。

 普通に出られる。


 だからこそ、ダンジョン近郊の都市ではダンジョンで発生する魔物の集団暴走、いわゆる『スタンピード』を常に警戒しなければならない。

 まあ、ダンジョンには『冒険者』と呼ばれる人間が絶えず攻略に訪れ、定期的に魔物は狩られるのでスタンピードはほとんど起こることはないらしいが。


 最近では、ダンジョンをただ"攻略"するのではなく"管理"するという考えに移行してきているようだ。

 脅威度により冒険者同様にダンジョンもランク分けされ、上位冒険者の独占を防ぐのが狙いだとか。

 それは同時に冒険者の生存率を上げることにも繋がっている。



 ───ふぅ。



『DP』の増やし方についても分かった。

 このDPってのがなければできないことが多いからなー俺。

 …………ってか、俺DPなきゃルルと会話するくらいしかできねーややべぇ。


 増やし方は大まかに4つ。



 ・自動回復

 ・領域内での外界生物の殺害

 ・領域内での外界生物の滞在

 ・領域内での外界物質の還元



 である。

 なんか、堅苦しいよなー言葉が。

 たぶんこの"外界"というのは"ダンジョン外"のことを意味しているんだと思う。

 いろいろ考えたけど、その結論に至った。


 まず1つ目、自動回復。

 これはほぼ期待できない、極微量だ。

 具体的には、1時間に約0.5ポイントくらい。

 まぁ、ないよりはましかな。

 1日に12ポイントは得られるわけだし。


 2つ目、領域内での外界生物の殺害。

 一番わかりやすいよな。

 ダンジョン内に侵入してきた人間、動物、魔物を殺せばいいわけだ。

 手に入るポイントは、細かいことを抜きにすればその生物の『レベル×100』くらい。

 細かいことを言えば個々の能力値により多少変動するが、だいたいはこんな感じだ。


 3つ目、領域内での外界生物の滞在。

 実は、侵入者がいる状況が続けば続くほど俺にとっては好都合というわけだ。

 具体的には、1時間毎に『レベル×10』くらい。

 10時間以上侵入者がいれば、殺すより稼げることになるが…………長いな。


 4つ目、領域内での外界物質の還元。

 簡単に言えば、侵入者が身につけている装備とか、アイテムとか、死体とか。

 それらを還元してもDPにできるらしい。



 ………はぁ、疲れた。


 ん?


 思考の休憩にはいった俺の脳裏に、一つの考えがふと舞い降りた。























 どうにかつよーい人間や魔物を『家畜』としてダンジョン内で『飼う』ことができれば、それが最も効率的なダンジョン経営なのではないだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る