019:家畜化に関する考察と今後の展望。

 

 獲得DP:802

 殺害数:1

 捕獲家畜数:2

 現家畜数:2

 現DP:2126

 不労DP:142/h


【獲得アイテム】

・人間の死体

・人間(♀)×2

・女性用の衣類

・薬草少々(籠付き)

・護身用ナイフ×3



 ++++++++++




「うぇーい」


「……グゥ、ガ……グ……?」


 俺は右手を高らかと突き出し、近くにいたももたろうにハイタッチを求めた。

 しかし、コイツには信じ難いことに"ハイタッチ"の文化がないらしい。

 俺の意図を理解できないことに焦っているのか、ごっつい大鬼がオロオロと困ってる姿はなんとも滑稽だな。


 だから俺は懇切丁寧に、ハイタッチという文化がいかに偉大で素晴らしいものなのかを説いて聞かせた。

 そして、力加減がひじょーーーに重要であるということも。


 だってコイツめっちゃ力強そうじゃん。

 そこんところはしっかり言っとかないと。

 怪我してからじゃ遅いからね。

 改めて、


「うぇーい」


「グ、グゥー」


 今度は若干戸惑っていたが見事にハイタッチ成功。

 うんうん、そうだよ。

 お前は手を添えるだけでいいんだ。

 怖いから、絶対手を振るなよ。


 さて、どうしようか。

 あまりに弱々しい感覚だったので、今回の侵入者は捕獲すべきと判断して、とりあえず俺が強めに殴って気絶させた。

 てか、意外とできるもんだなー。

 俺の身体能力の向上具合からまぁできるんじゃねぇかなとは思ってたんだけど。


 むしろ1人殺してしまったわ。

 何気にすごくね?

 殴って人を殺せるって。


 俺はスマホでまず現在のDPを確認した。

 現在のDPは─── 2126DP

 うん、リモート接続は完璧に機能してる、素晴らしい。

 次に、カタログを開く。


 どれどれ…………


 …………。


 …………。


 …………。


 ……よーし、だいたい決まったな。


 まずはこれ。




 部屋(小)[400]:小規模な部屋。約10畳ほど。




 十分すぎる。

 十分すぎるわこれ。

 そしてわかりやすい説明をありがとう。

 あ、やっぱ今の取り消し。

 散々管理者Lには嫌がらせされてる。

 絶対感謝なんてしねーっての。

 あとは……




 檻(小)[150]:収容人数最大4人。




 おーいいじゃんいいじゃん。

 2人入れておけるわ。

 残り1576DP

 あとは……………………


 俺には1つだけ心配なことがある。

 それは───『魔法』だ。

 この世界に存在するトンデモ能力。

 その脅威を俺は身をもって知っている。

 これを封じることができなければ、侵入者を捕らえることに成功してもなんの意味もない。

 家畜にするなど絶対に無理だ。


 だが、息をつく間もなく次々と起こる目の前の問題を対処することに必死で、今の今まで調べることを忘れていたが、俺は魔法を封じる手段はこの世界に絶対にあると思っている。


 だってそうでしょ。

 じゃなきゃ魔法を使える犯罪者を捕らえることができない。

 それでは絶対魔法至上主義の秩序のない世界になってしまう。

 けどこの世界はそうじゃない。

 俺が『知識だよん♡』に目を通す限りでは、この世界はしっかりと秩序がある。


 むしろ厳格なくらいだ。

 国があり、法律があり、学校があり、技術があり、身分があり、能力ある者を『冒険者』として管理し、『ダンジョン』さえも管理している。

 それで魔法を使える犯罪者を裁く手段を持ち合わせていない方が不自然だろ。


 だから……きっと………………ある………は……ず…………なん……だが…………………っ!!

 見つけた!

 やっぱあったわ、良かったー。




 絶魔の首枷[700]:大気中の魔素との干渉を完全に断絶する首枷。魔道具の一種。




 これだ。

 魔法ってのは、自身の魔力と大気中の魔素を干渉させてなんらかの現象を引き起こすもの…………だったかな。

 たぶんそうだわ。

 この干渉を完全に断絶するなら、それは魔法を使えなくさせるってことだよな。


 うーん、でも高い…………。

 高い……DPほとんどなくなるわ…………。

 まあないよりましか……。

 それにしても魔道具ね。

 この世界の技術として存在することは一応知ってはいるけど、あまりピンとはきてないな。



 ───ん?



 これ、武器としても使えないか?

 どうにかして侵入者の魔法が使える奴にこれをつけることができれば…………。

 ─── だいぶ楽になるぞ。

 魔法を封じられるってのは戦略的に本当にデカいな、強敵であればあるほど。

 ………いや、難しいか?

 絶対に接近する必要があるわけだしな。

 あ、でも、こういう能力に長けた魔物とかもいるかもしれないか。

 隠密行動……的な。

 あれーこれいけるのか………………?


 …………。


 …………。


 …………。


 あー、やばい。

 思考が脱線したわ。

 せっかくコイツら気絶させたのに起きちまう。

 これは後で考えよう。


 その前にメモメモ……忘れないうちに。


 俺はスマホのメモアプリをタップして、ついさっき閃いたアイデアをメモった。

 メモはマジ大切だから。

 すーぐ忘れちゃうからね、ほんと。



 うっし、行動方針は決まった。

 早速行動しよう。



 まず小部屋の作成。

 俺の部屋を出て、通路を左に曲がってしばらくするとその小部屋に辿りつくように作ろう。

 さすがに俺とルルの超絶神聖域の隣に家畜部屋を作りたくはない。

 ストレスで眠れない。

 眠る必要ないけど。


 そして檻を1つ作り、その小部屋に設置。


 最後に『絶魔の首枷』を2つ作って、コイツらの首につけた。

 よし、完璧だわー。



 あーあと。



「おーい緑山」


「ギィっ?」


「コイツらの服全部脱がしとけ」


「ギィッ!? ギギギィキギッ!?《エッ!? 犯していいんスかッ!?》」


「バッカ、ちげぇよ。それは今度お前が活躍した時の褒美に考えといてやるよ」


「ギィ……」



 ─── もう、俺にはほんの僅かの油断もない。

 あの最初の戦闘は、本当にいい勉強になった。

 身を持ってこの世界の怖さを味わった。


 ルルを守るために一切の妥協はしない。

 こんな弱そうな奴らでも、なんらかの"手段"を持っているかもしれない。

 俺はこの世界に対し未だに無知だ。

 これから学ばなければならないことが山ほどある。


 だから、できる限り可能性を排除しよう。

 限りなく無力化しよう。

 そのために、当然服だって脱がすさ。

 妥協しないって言ったろ?




 それにな─── 家畜が服を着てるなんて、おかしな話だろ?




 コイツらに尊厳なんて大それたものはいらないんだよ。

 これからコイツらは、俺の、いや、俺たちの糧となるためだけに存在する生物になるんだ。




 もう人間じゃなくて───




 ─── 家畜なんだわ。




 さて、と。

 今はだいたい……10分くらい経ったか。

 えっと、増えたDPは……だいたい23.7DPか。

 となると、1時間で─── 142DP

 1日では…………3408DPッ!?!?

 しかも、維持費は1日1人当たりだいたいたったの約12DP

 ウソだろおいマジかッ!!


 なんだ……このとんでもない幸福感は……。

 3408DPが毎日働かずに手に入る。

 そう、働かずに。

 まさしく不労所得。

 素晴らしい響きだ。

 なんと素晴らしい響きなんだ!


 ふぅ、テンションが上がってきたわ。

 俺の経営方針は間違ってなかったな、やっぱ。

 こんな弱いやつでもこれだけ手に入る。

 うんうん、素晴らしきかなこの世界。




 …………これなら、本当にいけるかもしれないな。




 いつか本当に─── 『人間の居ない国』を作れるかもしれない。




「んじゃ、コイツら運んどいてー」


「グゥガ、ググ《かしこまりました、我が主》」


「ブゥオ」


「…………おい緑山ッ!!! てめぇどこ行くんだ?」


「ギギィッ!?」


「俺の側を離れるな、いいな?」


「…………ギ、ギィ…《う、ういっス…》」




 まったく、コイツは油断も隙もあったもんじゃねぇ。

 よし、やることは終わったな。

 どうしようかなー次の侵入者来る気配ないし。

 それまでの間やること……あぁ、そうか。

 今後のためにも、コイツら家畜を観察し、考察しよう。

 より合理的に、より効率的に。




 人間カチクを家畜にするために。






 ++++++++++






『家畜化に関する考察と今後の展望』




 ──1日目──


 依存性、有害性から薬物は『ヘロイン』を採用。

 ヘロインを混入した水と食料を与えるも、警戒し口にしようとはしない。

 半ば予想通りの結果。

 魔物が渡す食事はやはり信用出来ないようだ。

 もし、人間に擬態することが可能な魔物がいるのなら、警戒心を麻痺させる時間を短縮することが可能であると予想。

 検証の余地あり。




 ──2日目──


 1日目と同様、やはり食料を口にしようとはしない。

 "2人いる"という点が警戒心を高めている要因の1つとなっているかもしれない。

 互い激励し、不安の払拭をはかっている。

 "孤独"の家畜化に対する影響の検証は現在不可能。

 DP回復および安全の確保、次なる家畜の捕獲により比較実験を推奨。




 ──3日目──


 排泄物による感染症の危険性あり。

 そのためスライムの上位種『ベリル・スライム[150]』を急遽創造。

 予想通り、知性あり。

 排泄処理を担当させる。

 ベリル・スライムは嫌悪感を一切示すことなく、排泄処理を遂行。

 適任と判断。

 今後ともベリル・スライムは排泄処理を担当させて問題ないと、今のところ思われる。

 そして本日、家畜が初めて水のみを摂取。




 ──4日目──


 ようやく、食料を口にする。

 異常なほどの興奮を示す。

 ただしこれは"ヘロイン"による反応ではなく、純粋に食料の味に対する反応と思われる。

 どうやら、DP消費により創造可能な"元の世界の食べ物"は異様に美味しく感じるようだ。

 続いて、薬物の反応あり。

 口数の増加及び笑みを浮かべている時間の増加を確認。

 多幸感を感じていると目視により判断。

 この世界の生物に対しても、やはり麻薬は効果を示すようだ。




 ──5日目──


 軽度の離脱症状を確認。

 服用量の調整はやはり注意が必要。

 正確な体重計算は今後解決しなければならない課題の1つである。

 食料を待ち望んでいると目視により判断。

 すでに水と食料に対する不信感、忌避感共に欠如。

 体重の増加は未だ見込めていないが、正常な判断能力も欠如している。

 完全とは言い難いが、家畜化完了と言えよう。

 現時刻をもって、家畜の観察及び考察を終了とする。




 【今後の展望】

 家畜化に要する時間─── 約5日。

 今後さらなる家畜の同時増加を考慮すれば、家畜化の時間短縮は必要と言える。

 加えて、今回検証できていない家畜の繁殖についても考察が必要。

 しかし、どちらも急を要する問題ではない。

 現在最大の問題は家畜の確保方法である。

 侵入者を生かしたまま捕獲する手段の模索が必須だ。

 カタログ参照の結果、吸入麻酔薬『ハロタン』が効果、DP面共に現在の最有力候補と思われる。

 しかし、扱いの心得がないため不安が残る。

 次なる候補が罠『睡眠ガストラップ』であるが、消耗品かつ高DPであるため今後とも最適解の模索及び検証を重ねる必要があるだろう。

















 俺はそっとメモ管理ソフトを閉じる。

 目を揉みながら椅子に体重をあずけ、翼を含めた全身くぅーっと伸ばす。


 ふぅー疲れた。

 目痛いわー。

 そして侵入者来ないわー。


 まあ、それならそれで別にいいんだけど。

 お前らが来ないなら、俺はどんどんダンジョンを強化するだけだし。

 不労DPを手に入れた俺を、なめんなよ?






 現DP─── 17832DP

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