×××:悪戯好きな管理者。

 

「アッハッハッハッハッ、最高、最高すぎるー、アッハッハッ、あーお腹痛いー」



 空中に複数浮かび上がる不思議なスクリーンに映る、黒い翼を持つ1人の男を見て、は手足をバタバタさせて笑う。

 子供特有の、性別の分からない甲高い笑い声が響き渡る。


 ここは、境界線を失った場所。

 一面が黒であり、白でもある。

 そんな矛盾が同居する場所。

 ふと気がつくと、そこは海の中の世界へと変わっていた。

 次は広大な樹海の中、雲を貫くほど高く聳える霊峰、灼熱の砂漠、秘境に魔境、そして、また黒の世界。


 絶え間なく変化し続け、やがて、気まぐれにその変化をやめた。

 まるで─── 意思を持っているかのように。



「いや〜さすがボクのお気に入りの1人だねー。パチンコ玉をオーガに投げさせるのも面白いけど、一番はやっぱり人間を家畜にするというアイデアかな。いいよいいよ、すごくいいよ。清く正しく狂ってる。人間に対する良心が完全に欠如している君だからこそ、その答えに辿り着けたんだろうね。うんうん、見てて全然飽きない♪」



 少年、いや、少女だろうか。

 その中性的な見た目からは判断できない。

 背丈から子供であるように見えるが、それさえも正しいのかは甚だ疑問である。



 なぜなら─── その存在は人ではないからだ。



 透き通るような純白が基調の髪は肩の辺りで切りそろえられ、不規則に水色や薄い赤色、黄色に緑といったカラフルなメッシュが彩る。



「んーどうしよかな……」



 だが、次の瞬間には鮮やかな蒼にその全てが塗り替えられた。

 変化はそこで終わらず、様々な色に次々と変化していく。

 それからいくつかの変化を経て、結局、三筋の白いメッシュの入った純黒の髪に落ち着いた。



「うん、今日はこの色かなー」



 どうやら、何もかもが自由自在らしい。



「いやはや、今回は優秀な子が多くて嬉しいな〜♪ 選考基準厳しくしてみてよかった。すごーい、7割も生き残ってるよ〜。いつもは半分生き残ればいいかなーってぐらいなのに。でもみんな初期DPに文句言い過ぎー! ぷんぷん! このくらい乗り越えてもらわないと、これからの厳しい世界を生き残れないんだってのー。むしろ感謝して欲しいくらいだよ。この世界は怖いよ〜、理不尽に溢れてるよ〜って教えてあげたんだからさ!」



 いつの間にか、その存在はベッドのようなものに寝転がっていた。

 さらに、スクリーンが7つに分裂する。

 そこに映されたのは、7名の人にあらざる者達。

 その姿は実に多種多様。



 胸に輝く鉱石を持ち、金属のような硬質で無機質な肌を持つ者。


 その身に植物が絡みつき、完全に一体化している者。


 岩の巨躯を持つ者。


 まさしく妖精、としか表現ができない者。



 だが、スクリーンに映るその4名はすぐに端に追いやられた。

 その存在の前に大きく表示されているのは、残りの3つのスクリーンの方だ。



「それにしてもヤバいよね〜ゴルデリア大陸。ボクのお気に入りの7人のうち、3人も集まっちゃうなんてさ〜」



 その3人のうちの1人は、所々赤い鱗に覆われた肌に、額に生える2本のツノと尻尾が特徴の、燃えるような長い髪をなびかせた女性。


 2人目は、白皙の肌にシルクハットが印象的な高身長の男性。

 これだけでは彼を人間と思う者いるかもしれない。

 しかし、それも彼の口腔に隠された異様に発達した牙を見れば、認識を改めざるを得ないだろう。


 そして3人目が─── 純黒の翼を持つ男。



 その存在はコロコロと三者を見比べ、クスクスと悪戯な笑みを浮かべた。



「あぁ〜楽しみだな〜。なんでこう面白いことが続くんだろ〜ボクってラッキー♪ これからどうなるのか想像したら、もう楽しみすぎておかしくなっちゃいそうだよ♪ ─── でもやっぱり……」



 1つのスクリーンが再び拡大される。

 そこに映るのは、翼を持つ者。



「やっぱり、ボクは君が気になっちゃうな〜。なんでだろ。─── ふふっ。まぁ、理由は分かってるんだけど。君が───」



 ボクと同じ─── 『Luiルイ』という名前を持っているから、だろうね。



 そう言うとその存在、『Lui』はまた笑った。



「偶然って怖いよね〜。幾重もの世界を渡って、ボクがまさに死ぬ直前の適性ある君を見つけた。過去でもなく、未来でもない。まさにその瞬間に。いや〜怖い怖い。偶然ってほんと怖いな〜。─── なーんちゃって。偶然なんてこの世にはないよね。これは運命だよ。…………もしかしたらボクの存在には、君が大きく関わっているのかもしれないね……」



 頬杖をつき、少しだけうっとりした目つきでLuiはスクリーンを見つめる。



「だけど、特別扱いなんてしてあげないからね〜。……猫ちゃんはちょっとサービスしちゃったけど。まぁ、そのくらいはね……。で、でも! 君の周りに敵となる存在が溢れてることには変わりないよ! 人間だけじゃないからね、君たち魔王の敵は。他の魔王だって味方じゃない。先輩の魔王なんてのもいる。先輩の魔王ってのは、すでにこの世界に順応しここまで生き残ってるわけだからね。これが何を意味するか。頭のいい君なら分かるよね」



 言葉は届いていないと分かっていても、Luiはスクリーンに向かって語りかける。



「それにさ、そろそろ───次のゲストをこの世界に招待しようかな、と思っているし。君たちとは正反対の、とーってもゲストをさ」




 Luiの純粋な笑みが、黒い笑みへと変わる。




「前回は魔王にすぐ殺られちゃったからなー。かといって強くしすぎたら、今度は魔王が減っちゃうし。難しいところだよね、調整が。でも招待したいんだよな〜その方が面白いんだよな〜」





 うーん、うーん、とLuiは少しだけ悩む。

 だが、それは一瞬だ。





「よし、じゃあちょっと出かけようかな。ボクに選ばれる、超幸運な次のゲスト君たちを見つけに。─── 頑張ってね、ルイ君。君の知恵と力と幸運に、期待するよ♪」






 その言葉を最後に、『Lui』の姿は忽然と消え失せた。

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