023:大物喰らいの対価。
「うぇーい、うぇーい、うぇーい───」
俺は空中を飛びながら配下の魔物たちとハイタッチをしていく。
デカい手が並べられているところに、俺が次々と手を当てていく。
いや〜感無量。
感無量以外の何ものでもないわー。
今回は本当ーーーーに死んだと思った。
走馬燈のように何回もルルの可愛い姿が過ぎったからね、うん。
あの隊長さん、なんだっけ、『ヴァルキリー』だっけ。
ガチでやばすぎ強すぎ。
なんか勝手に油断してくれて助かったわー。
でも、不思議と嫌悪感はなかったな。
見た目が人間と全然変わらないのに、あれは絶対に人間ではなかった。
なんでかはわからないけど俺はそう感じとれた。
どうやら俺が嫌いなのは、やっぱり『人間』らしい。
さてさて。
俺の作戦は単純だった。
オーガとオークに全力の咆哮をさせ、注意をひくと同時に緑山の足音を消す。
そしてこれは賭けだったけど、俺が全力で攻撃を仕掛けることで後ろへ後退させる。
意識を俺へと集中させてからの緑山の奇襲。
あの状況で咄嗟に俺が指示できたのはこの程度。
いやー上手くいって本当に良かったわ。
無理だろあんなん。
今こうして生きてんのがどれだけの奇跡か。
しかも俺たちの死傷者はゼロ。
やばすぎね?
いや、それよりも何よりも………………
「緑山半端ないって!!」
俺は緑山と強いハイタッチをする。
「ギシシ! やってやったっすよ〜ボス〜! オイラがやってやったす!」
「ちくしょー否定できねー。悔しいけど今回ばっかりは否定できねーわ。まじサンキューな、俺らが今生きてられんのはお前のおかげだわ。お前らも緑山に感謝しとけよ〜」
「グガァ……。同じ第一の配下であるライバルとして認めたくはないが……俺の……負けだ……。いい加減認めよう……緑山、お前がナンバーワンだ」
ももたろうがなぜかすごく悔しそうに、膝を曲げ、目線を緑山に合わせてから、ハイタッチをした。
「お、おでは、みんな仲良くすればいいど思うんだな、うん。あでぃがど、緑山。こでからも仲良くしで欲しいんだな、うん」
次は豚キムチ。
コイツはいつも通り。
優しい笑顔で緑山とハイタッチ。
「ギッシッシ、みんなひれ伏すっすよー!! オイラが今日からこのダンジョンの新たなお────アタァッ!」
ももたろうを含めたオーガたち。
豚キムチ率いるオークたちが、揃って緑山に感謝の言葉を述べていく。
案の定調子にのってきた緑山の頭を、俺は軽くどついておく。
すーぐ調子にのるからねコイツ。
まあ今回はいいんだけど。
実際それだけの活躍をコイツはしたよ。
……てか、配下の魔物達の言葉が妙に流暢じゃね?
今まではけっこう片言だったんだけど、すっごくスムーズに聞こえる。
ちょっとだけ理解している外国語が、突然日本語のように聞こえるようになった感覚。
すげーやっぱ今回めっちゃレベル上がったんだな。
確認すんの楽しみだわ。
「いや〜まじでお疲れ様なお前ら。とりあえず今はゆっくり休んでくれ。俺も疲れたからちょっと寝るわ。多分大丈夫だと思うけど、もし侵入者来ても俺が寝てたら起こしに来てくれ〜」
配下の魔物たちを労い、俺は翼をはためかせ空中へと舞い上がる。
すごく疲れた。
本当に疲れた。
肉体的にも、精神的にも。
とりあえずはやくルルに会いたい。
部屋の前につき、見慣れた玄関の扉を開ける。
「にゃー。おかえりーるいー」
玄関でルルがお出迎え。
やっぱりルルの言葉も流暢になっている。
「──── ただいま、ルル」
俺は玄関に座り込み、そのままルルを抱き上げる。
すると、なんか少しだけ涙がでてきた。
命の危機から解放されたことの安堵からなのか、ルルをもう一度見ることができたことの喜びからなのか、はたまたその両方か。
俺の意思を全く無視して流れるその涙は、しばらくの間止まることはなかった。
「るいー、ないてるー? なんでないてるー?」
ぺろぺろとルルは俺の涙をなめてくれる。
ルルはこんなことを言いながら、今までずっと弱い俺をなぐさめてくれていたのか。
そんなことを思いながら、俺は倒れこむ。
このまま寝てしまいそうだ。
「ありがとう、ルル。これからも俺は、絶対にお前を守るから」
言葉が上手く出てこない。
だから1番伝えたいことだけを口にした。
生きていることが嬉しかった。
父さんを失ったあの日から、生きることがずっと辛くて、一度は自ら絶ったこの命だけ……ど………………も……う…………まよ…………わ……な…………い……………………
こんど…………は…………ルル……と……あいつら……………の……ため…………に…………………………
++++++++++
ふー、よく寝た。
ぐっすり眠れたわー、最高の目覚め。
玄関で寝たせいで体は少し痛いけど。
気持ちのよい目覚めを迎え、すぐに風呂に入って汗を流し、さっぱりしたところで久しぶりにご飯を食べることにした。
なんとなく食べたかった。
時間を確認するとどうやら朝らしかったから、朝食ということになる。
そしてこれまた何となく自分で作ろうかなーと思い、冷蔵庫を開けた。
匂いからまだイケると判断。
IHコンロの電源をいれてフライパンに熱を通し、油をひいてからそこに卵を2つベーコンを2枚。
チンッ、という音ともにトーストが出来上がった。
キャベツとレタスのサラダに胡麻ドレッシングをかけて、気分的に温かい紅茶が飲みたかったから淹れる。
いい感じに出来上がった目玉焼きとベーコンを皿に移し、完成。
それから猫缶と1つ取り出して完璧。
「ルル〜、ご飯にしような〜」
「にゃ〜」
「ギシシ〜」
「…………」
ペシッ
「アタァッ! な、なんすかボス〜。オイラなんか悪いことしたっすか〜?」
「いや分かってだけどな。起きたときからお前がいることは何となく分かってたけどな。でもおかしいだろーが、なんでいるんだよ」
当然のように緑山が俺の部屋にいる。
コイツら魔物も俺と同じように、ダンジョン内にいるときは基本食事はいらない。
だから絶対にここに居る必要はないのだ。
それと……なんか少しだけデカくなってね?
なんだコイツ、成長期か。
まぁ、ルルも嫌がってないみたいだしいいんだけどな。
「いいじゃないっすかー暇だったんすよー。それにももたろうのやつが訓練相手になれってうるさいんすよ〜。勝てるわけないじゃないっすかーオイラただのゴブリンなんすよ? だから逃げてきたんす」
「逃げてきたんす、じゃねぇよ。しろよ訓練。次も今回みたいにいくとは思うなよなー。めっちゃ運が良かっただけだからね今回は」
「それはさすがにオイラもわかってるすよ。あいつまじでやばかったすよね〜ボスが負けちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしたっす。ギッシッシ、まあ最後はオイラが───アタァ! な、なんなんすかさっきから! ペシペシとオイラの頭を物みたいに!」
「いやすまん。なんか、ムカついて」
「にゃー。るいー、おなかすいたー」
「あぁー! ごめんよルル〜この馬鹿のせいで遅れちゃったわ」
「お、オイラが悪いんすかー!? 理不尽っすー!!」
それから俺は、緑山にも目玉焼きとベーコンとトーストをわけてやり、しばらく朝食を楽しんだ。
父さんが死んでから俺に話し相手なんていなかったから、緑山と他愛ない会話をしながら食べる朝食は妙に美味しく感じた。
んで、食べ終わってから俺が食器を洗っていると不意に小さなノック音が2回。
玄関を開けると、そこにはももたろうと豚キムチが立っていた。
─── その足元に、大量すぎる今回の戦利品を置いて。
「我が主、今回の戦利品全て運び終えました」
「た、大量なんだな、うん。今回はとくにすごいんだな、うん」
「いや〜すげぇ量だな。サンキューなお前ら」
そうだった。
今回の戦果を確認。
自然と俺はニヤけてしまう。
いや仕方ないだろう。
期待しないなんてことできるはずがない。
こんなーに死ぬ思いしたんだから。
大物喰らいに見合う対価がどれほどなものだったのか、確認しようか。
ももたろうと豚キムチに感謝を述べてから、俺はPCデスクに座る。
ルルがデスクに飛び乗り、緑山がそばでPCを覗き込む。
もはやリザルトの確認はこれが鉄板なのかもしれない。
さて、まずはスキルだ。
俺は例のごとく『スキルだよん☆』をクリックした。
《無缺偽装》
《魔力知覚》
《フレアバレル》
《雷光加速》
《斬撃》
《切断強化》
《剛防壁》
《多元城壁》
《ドラゴニックアロー》
《フリーズアロー》
《遠視》
《必中眼》
んー被ってるなー。
そうかーそうだよなー。
当然そうなることもあるわけだよな。
でもまあいいや。
面白そうなスキルいっぱい手に入ってるし。
それから俺はスキルの内容をチェックしていく。
だいたい名前から予想できる通りだった。
でも、とくに面白いのがこの2つだ。
無缺偽装:看破不可の完全なる偽装が可能。
魔力知覚:魔力を視覚情報としてとらえることが可能。
面白いよな。
これからのことを考えると、この2つのスキルが手に入ったことはかなりデカい。
当然このスキルは俺が覚えることにする。
絶対その方がいい。
……クソめんどくさいし、心底嫌だけど絶対にやらなきゃいけないことあるし。はぁ。
よーし、振り分けは割と簡単。
《無缺偽装》《魔力知覚》《フレアバレル》《切断強化》《多元城壁》は俺。
これからも俺は最前線で戦う予定なのでちょっと多め。
《雷光加速》《斬撃》は緑山。
コイツには奇襲の才能を感じる。
素早いし忍び寄るのが上手いから、この2つのスキルはよりその成功率を上げてくれるだろう。
《必中眼》はももたろう。
ピンポイントで狙って欲しい奴とかこれから出てくるかもという点から。
んで、豚キムチは今回なし。
《剛防壁》を別のオークの一体に。
あとは保留。
弓を使える奴はまだいないから。
今回新たに弓を使える魔物を創造してもいいかなーとは思ってる。
うむうむ。
順調順調。
スキルの振り分けはこんなもんだな。
次はステータスだ。
どきどき、わくわく。
名前:ルイ
種族:魔王【堕天種】
Lv:18
クラス:中級包丁剣士
攻撃:C
防御:D
魔力:C
敏捷:C
精神:A
DP:1202746
【エクストラスキル】
〈コミュニケーション:Lv.Max〉
〈無缺偽装:Lv.1〉
【スキル】
〈魔素吸収〉〈ダンジョン生成〉〈領域〉〈配下創造〉〈物質創造〉〈飛行:Lv.Max〉〈変幻飛行:Lv.5〉〈チェインライトニング〉〈斬撃:Lv.Max〉〈豪斬撃:Lv.3〉〈雷光加速〉〈フォロイングライト〉〈フレアバレル〉〈魔力知覚〉〈切断強化:Lv.1〉〈多元城壁:Lv.1〉
………………。
いや、あの……いろいろあるんだけど。
気になることはいろいろあるんだけど……。
まず、一番ヤバイのが────
「ひゃくにじゅうまん…………だと」
「ギシ……ぱ、パネェっす……」
「にゃー」
これはやばい。
一気に石油王だわ。
石油王になったレベルだわ。
いや……まあ妥当……か?
むしろ低いぐらいなのか。
あのヴァルキリーは1000万DPとか言ってたな。
盛ったのか?
さすがにそれは考えにくいな。
と考えると約10分の1になってるわけか。
でも、それを差っ引いても120万は俺にとってとんでもないけどな。
これからダンジョン大幅強化しよう。
アイツからはいろいろな情報を聴けた。
この大陸にどんなヤバいやつがいるのか。
派閥の存在に先輩ダンジョンマスターのこと。
DPはいくらあっても足りないってもんだわ。
……中級包丁剣士。
よし、次だ。
俺は『配下情報だよん』をクリックした。
大半の配下がかなりレベルアップしている。
それに加えて今回はもう一つ、変わっていることがあった。
・ももたろう【ウォーオーガ】:Lv.42
・豚キムチ【ハイオーク】:Lv.40
・緑山【ホブゴブリン】:Lv.47
───うん。
「何お前進化してんだよ」
ペシッ
「ギシッ!?」
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