十二章 にえの儀式 3

 *


 視線をそらすことができない!

 金縛りにあったように見つめているうちに、続いて地面から、ぽこんと頭が生えてきた。

 黒髪の女だ。


 なさけないけど、僕は腰をぬかしてしまった。


 ギャアギャアさわいでると、蒼太くんが、すっと手をのばした。地面から生えた手をつかんで、ひきあげる。


「蒼太くん! な、なにやってるんだよ! オバケの手助けなんかしないで」


 蒼太くんは涙の粒を、指のさきで、すくいあげながら笑った。


「じゃあ、つきおとそうか?」


 オバケなら、つきおとしてほしいところだ。が、蒼太くんに助けられて、ひきあげられてきた人を見て、僕は返事につまった。


 これは……どういうことだ?

 なんで地面から、海歌ちゃんがわいてでるんだ?


 海歌ちゃんは荒い息をととのえ、さっき自分が出てきた穴を指さす——って、穴? 穴がある!

 庭草にかくれて、わかりづらいけど、たしかに穴だ。


「なに、この穴っ?」


 しれっと、蒼太くんは言った。


「竜神のほこらに通じてるんだ。子どもしか通れないけどね。このへんの子どもは、みんな一度は、ここをのぼって遊ぶんだ」


「ああッ——!」


 思いだした!

 最初に竜神のほこらに行ったとき、颯斗くんが言ってた。おもしろいものを見せてあげるって。

 もしかして、おもしろいものって、これのことか?


 もちろん、神社で蒼太くんが、とつぜん消えたのは、ここに入って逃げだしたせいだ。


 そうなると、密室は密室じゃなくなる。たとえ、子ども限定とはいえ、出入り口はあったわけだ。ここからなら、誰にも目撃されずに竜神の洞くつへ行ける。


「ええと……犯人は、子ども? うーん?」


 やっぱり、蒼太くんか?

 でも、のえるちゃんのことはともかく、蒼太くんが咲良さんを殺すはずがない。


 頭をひねってると、僕の顔を見て、蒼太くんが言った。


「言っとくけど、おれ、殺してないよ。のえるも、おれじゃない」

「えっ? じゃあ、誰なの?」


 蒼太くんは首をふる。

 ますます、わからない。

 すると、呼吸をととのえた海歌ちゃんがさけんだ。


「竜神さまを助けて! 竜神のおにいちゃんが殺されちゃうよ!」


 竜神さま? もしや、それは……。


「蘭さんのこと? 蘭さんが洞くつにいるんだね?」


 海歌ちゃんは、泣きながら、うなずく。


「海坊主が包丁もって、追っかけてきた」


 大変だ。蘭さんが危ない!

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