東堂兄弟の探偵録〜第四話 ブラッディレッドの海〜

涼森巳王(東堂薫)

プロローグ



 海鳴りが聞こえる。

 もうじき、満潮か。

 ここまで波が来るのも、まもなくだろう。


 洞くつのなかの小さな祠。

 竜神をまつる祠だ。


 ここで、さくらは殺された。竜神祭のさなかに。

 犯人は、まだ捕まっていない。



 会いたい——



 切実に思う。

 だが、死んだ人間には、ふつうの方法では会えない。

 ならば、祈るしかない。


「わだつみの神よ。さくらは、あなたのニエとなった。ニエの命を代償に、願いは叶えられるはず。ぼくの願いを聞いてくれ!」


 蒼太の声は、岩かべに反響し、まるで千人の合唱のように聞こえる。


「ぼくは復讐を誓う! さくらの命をうばったヤツをゆるさない。そのためなら、ぼくの命をささげてもいい。だから——」


 この願いは叶えられるのだろうか?


 ただ、波音だけが応える。

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