45プトラ プトラ神

「そんな、バカなダッシー!」


 狼狽うろたえるダッシーオネェ。残念だが、俺らは、プトラ神なんて信じないし、これから先も祈るつもりは無い。


「ナツ! リンゴ! そこに転がっている、亜房あぼう先生とオネェ二人も外へ運ぼう。」


「え、コイツら敵じゃん。いいの? また元気になったら襲われたりしない?」


「大丈夫だ。多分、もうりただろうよ。」


 俺は、人を疑うことなんて嫌いだ。皆、誰しも道もれる事だってある。彼らは、一度は『プトラ』の魅力に乗っ取られ、周りが見えなくなってしまったのかもしれないが、きっとこれからは、欲に溺れず、正しき道を歩んでくれる筈だ。


 正直、『プトラ』って何なのか、未だによく分からないが……。


「じゃあ、ダンゴ……。私は、亜房あぼう先生を運ぶね。オネェより軽そうだから。」


「ありがとう、リンゴ!」


 リンゴは、意識を失っている亜房あぼうを右手一本で持ち上げる。


「じゃあ、私はコイツを持つ。」


 ナツは、さくもオネェを左手一本で持ち上げた。


 何か、パワー半端なくないですかね?


 俺は、消去法でオネェ女を運ぶことになった。頑張って背中でおぶるが、重い。


 オネェ女に失礼だが、俺には重過ぎた。


「外へ繋がるルートは私が案内します。ついてきて下さい。」


 中村さんが俺らの先頭に立って、研究室を抜け出す。その後を、リンゴ、ナツ、俺が追う。


 揺れが少しずつ激しくなる。


「君たち、これで逃げ切れたと思うなダシよ!? プトラ神は不滅! 必ずいつの日か、後悔する時が来るダッシー! プトラ神は、絶対に不届き者達を許さないダッシー! ダシダシダシ!」


 ダッシーオネェは、研究室に残ったまま。


 両手を天にかざし、プトラ神へと祈りを捧げているようだ。プトラが一杯に詰まったこの研究室と、最期を共にするようだ。


 そして地下を抜けるまでの間、ダッシーオネェの笑い声は、途絶えることが無かった。俺らは、地下の廊下を走り、階段を登り、そして1階へ。


 途中、リンゴは何度も亜房あぼうを地面に落としてしまっていたが、なんとか、みんなで無事にここまで来れた。


 入り口が見える。


 久しぶりの太陽の光がそこに。


 やっと、俺たちの戦いは終わったのだ。

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