38プトラ 首輪

 俺とリンゴは、24時間以上監禁されていた部屋から飛び出した。


 未だに頭の中は、混沌としている。やっと体は、自由になれはしたが、疲労は極限にまで達していた。


 しかし、24時間連続で『ハムナプトラ』を観ることができたリンゴは、俺とは対照的な面構えをしている。


 目の輝きが違った。


 凄まじい生命力が漲っているように感じる。


 この状態のリンゴがいれば、きっと亜房あぼうの野望を打ち砕くことができるであろう。


 俺らは、明るい廊下を駆ける。ここは、病院の地下らしいが、とにかく病院を感じさせる要素は皆無だ。当然、窓が無いし、その為に湿気が多いような気がする。


 壁の至る所に、『プトラダッシー』と赤字で書かれていた。他にも、独特なアートが壁中に描かれている。


 中村さんは、廊下を真っ直ぐ進んだ所にある部屋が、亜房あぼうの研究室だと言っていた。一体、どんな所なんだろう? そこで何が待ち受けているのだろうか。


 俺らが閉じ込められていた所から、例の研究室と思わしき場所が、50メートル程進んだ所にあった。


 金属剥き出しの怪しい扉が俺らを迎える。


「リンゴ……!行くぞ……。」


「うん……!」


 俺は、亜房あぼうの研究室のドアを開ける。僅かにドアノブにかける手が震えていた。


 さあ、亜房あぼう……。


 覚悟しろ。俺が終わらせてやる。


 緊張と恐怖はあるが、負の感情をグッと奥へと押し込み、俺は、自らに暗示をかけた。


 絶対に勝てる。俺は今、映画の主人公だ。世界を救うのだ。


 しかし、扉の向こう側にあった光景は、あまりにも恐ろしい物であった。


「ああ……! なんでボクは、こんなに弱いんだ……!」


 なんと、白衣姿で首輪を付けられて、地面に四つん這いになる亜房あぼうが目に映り込んで来た。白衣を着ていると言っても、それはみだらにはだけ、胸元が見えている。そして、首輪に繋がれた鎖を、あのオネェ女がしっかり持っている。


「ちゃんと歩くのよ! アタシの言うこと聞きなさい!」


 え、何の実験してるんですか?

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