30プトラ 新種のオネェ

「リンゴ……!」


 俺は、リンゴの病室へと飛び込む。


 目に入った光景は、決していい物ではなかった。


「ダンゴ……! 駄目よ。逃げて!」


 ベッドの上のリンゴは、声を震わせながら言う。なぜなら、その両隣には、あのオネェ二人がいたからだ。


 ナツの『黒棺くろひつぎ』で、一度は撃退したように思えたあのオネェ達である。


「あら、やっぱり来てくれたのね。ダンゴちゃん。」


 オネェ女が、不気味な笑みを浮かべる。もしかして待ち伏せされていたのか?


「さくも! 今度こそ捕らえましょ!」


「任せなさいん!」


 さくもと呼ばれるオネェが俺らに近づいて来る。一方のオネェ女は、銃口をリンゴにしっかり向けている。


 これじゃあ、抵抗できない。


「また私の『黒棺くろひつぎ』を喰らいたいの……!?」


 ここでも勇敢に、ナツは、オネェ二人に立ち向かおうとする。


「あなたの脳みそちゃんは、筋肉でできているのかしら? あんなの演技に決まっているじゃない。ねぇ……ダッシー?」


「ダシダシダシ!」


 突然、背後から奇妙な笑い声が聞こえた。俺が振り返ると、そこには白衣を身に纏った、真っ赤な唇のオネェがいた。


 ここに来て、まさかの新種のオネェだ。


「アタシは争いを好まないダッシー! 芸術プトラは、血を好まない! 『プトラ』こそ全てダッシー!」


 なんて強烈なキャラなんだ。


 とにかく……俺らはオネェ達の罠に、ハマってしまったと言う訳だ。


「アタシが上空から、ヘリコプターを使って、ずっと君らを監視していたダッシー。恐らく、君らの目的は、結城ゆうき リンゴ! 君らが、かなり激しく暴れていたようだから、そこのオネェ二人に一度退散するを指示したんダッシー! 争わなくとも、やがてここに来るんだから。」


 このダッシーと言うオネェは、完全に俺らの動きを呼んでいたのか。争いを好まない……か。なるほど。


 リンゴを人質にされたら、俺らは暴れることもできない。


「ちょっと君らには、一度、眠ってもらうダッシー!」


 ダッシーオネェは、俺とナツの口元を、何か強烈な臭いがする薬品を染み込ませた、『ハムナプトラ』の刺繍ししゅう入りハンカチで押さえつける。


「ダンゴ……! ナツ……!」


 リンゴが叫ぶ。


 俺は必死に抵抗しようとするが、どうやら眠たくなって来たみたいだ。


 このまま目を瞑れば……。


 やら……れる……。

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