29プトラ 脳筋は伝染する

 そもそも、ナツの『黒棺くろひつぎ』が効かない点からして、かなりの大幅なパワーアップを果たしている。街中にいたプトラ化した奴らとは、動きも知能も段違いだ。


 これまで通用していた小細工が一切通用しない。


「ダンゴ! 怖いよ! コイツら、ガチでヤバい奴じゃん!」


「今更かよ……!」


 心の何処かでは、やっとナツが、事の重大さに気がついてくれて安心していた。しかし、こうなれば俺も男を見せないといけない。


「ナツ……! ライカを頼む!」


 俺は、階段を駆け上がりながら、腕の中で丸まっていたライカをナツへと手渡した。


「はむにゃぷとにゃ〜。」


 呑気に鳴いてやがる。


 ライカは、今度は、ナツの腕の中へと場所が移った。ライカが居なくなったことで、俺は一気に身軽になる。


「お前ら……! 追っかけて来るんじゃねぇよ!」


 俺は、ここ最近のストレスを全てプトラ化した奴らにぶつけた。連日の『ハムナプトラ』、破壊され尽くした俺の家、謎のオネェ、ナツの脳筋さ。


 不思議と力が漲って来る。


 プトラ化した先頭の奴の胸を、思い切り蹴り飛ばした。


「プ……プトラァァァ!?」


 先頭が倒れ、まるでボウリングのピンの如く倒れて行く。よし、やはり今の俺は、映画の主人公だ。


 完璧なアクションシーンじゃないか。


「ダンゴ、やるじゃん!」


「だろ? 今のうちに行くぞ!」


 敵の足止めは成功した。


 一気に階段を駆け上がる。俺らの激しい足音と、微かに下の方から寂しげな「プトラァァァ」と言う声が反響しているのが滑稽こっけいだ。


 ざまぁみやがれ。


 そして間もなく、8階へと到着だ。


「リンゴ……! 頼むから無事であってくれ!」


 俺の切実なる願いは、言葉になった。ただでさえ、『ハムナプトラ』が好きなリンゴが、プトラ化してしまったら大変なことになる。


 8階のフロアへと足を踏み入れる。


 急げ。


 静かな廊下を走る。


 幸い、誰も居ない。


「ナツ……! あそこだ!」


 リンゴの部屋を指差す。やっと、会える。


 俺は、扉を一気に開けた。

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