28プトラ 詠唱破棄

 病院内は、異様な程に静かだった。プトラ化した人間など居やしない。これも以前、リンゴのお見舞いに来た際とは、完全に対称的な光景だった。


 あれだけ多くの人が行き交っていた場所が、こんなにも静けさと不気味さが漂う場所に変貌するとは。


 しかし、プトラ化した人間がいないことは、俺らにとって好都合だった。


 ナツが居てくれるので、撃退は容易であるが、その代わり、俺の心の中でのツッコミが、酷くメンタルを消耗してしまう。


「リンゴは何処にいるの?」


「恐らく、無事ならば867号室……。8階だ!」


 エレベーターを目指す。階段を使うのは、単に疲れる。


 俺らは、エレベーターの所に到着すると、上向き矢印のボタンを押した。1階にあったエレベーターは、直ぐに開く。


「えっ!?」


 なんてことだ。


 開いたエレベーターの中には、無数のプトラ化した人間が乗っていた。恐らく、あと一人でも乗り込めば、重量オーバーのブザーが鳴り響くであろう。


「プトラァァァ!!!!」


 一斉に俺らへ向かって、威嚇をしながら向かって来る。


「私に任せて! 破道はどうの九十! 『黒棺くろひつぎ!』


 出た!


 ナツの十八番おはこ、『黒棺くろひつぎ』!


 しかも、詠唱えいしょう破棄はきだ!


 やはり、少年ジャンプを読んで育ったナツは強い!


 しかし……!


「プトラァァァ!!!!」


 なんと、これまで効果的だったナツの必殺技が効かなかったのだ。


「なん……だと……!?」


 期待にそぐわぬ現実に、呆然と立ち尽くすナツ。かなり、ショックを受けているようだ。


「プトラァァァ!!!!」


 襲って来るプトラ化した人間達。


「ナツ! 逃げるぞ!」


 俺は、ナツの手を引っ張り、走る。右脇には、ライカを落とさないようにしっかり抱えている。


 エレベーターは使えない。階段を一気に駆け上がろう。


 俺は、階段を目指す。そして、チラッと後ろを振り返ると、物凄いスピードでプトラ化した人間達が俺らを追って来ていた。


 ちょっと、速すぎじゃないですか?


 大学や街中で見かけたヤツらとは、明らかにレベルが違っていた。



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