27プトラ マリオカート

 ナツは、アクセルを思い切り踏み込んだ。耳を塞ぎたくなるよう強烈なエンジン音と共に、ロケットスタートに成功した。


「ヒアウィーゴォォォ!!!!」


『マリオカート』でしか経験が無い割には、派手で、そして案外、巧みなハンドルさばきである。ナツは、プトラ化した人々が運転する車をひたすらに煽りながら、爆走する。


 俺の脳内には走馬灯と、『マリオ』がスターを取った時の音楽が流れていた。今のところ事故は無いが、いつ死んでもおかしくない状況だ。


「『マリオカート』より簡単だね。」


「そうか、それは何よりだ。」


 景色が、物凄いスピードで去っていく。一般道なのに150キロは優に超えている。


 そのためか、到着までにかかる時間と、恐怖を感じる時間は、案外一瞬だった。


 前方に、『亜房あぼう総合病院』が見えて来た。あれだけのスピードで走れば、早く着いて当然ではあるが。


 果たしてリンゴは無事なのだろうか?


 ここまで自らの身の心配ばかりしてしまっていたが、『亜房あぼう総合病院』を目の当たりにして、再びリンゴの安否が気になり始めた。


「よし、無事に着きそうだね。この世界が元通りになったら、私、自動車免許取るよ。」


 勝手にしてくれ。ハハッ!


亜房あぼう総合病院』の大きな駐車場へと突入。やはり、あれだけ多くの患者を受け入れる病院だけあって、駐車場の敷地もかなりの広さだ。


 リンゴと共に救急車に同乗して来た時や、お見舞いの際、プトラトークを繰り広げる女子高生がいるバスに乗った時には、この病院の規模の大きさに気づかなかった。


 そして、全国的にも有名であるからこそ、この病院でどんな怪しい研究が行われていても不思議ではない。それだけの技術力は、あるのだろうから……。


 ナツは、病院の中央入り口の手前で車を停車させた。俺は、心の中で改めて気合いを入れ直し、車から飛び降りた。ナツも、エンジンを止めると、せっせと降りて来る。


「よし、ナツ。行こう。」


亜房あぼう総合病院』は、以前の印象とは全く違った形で、天高くそびえ立っていた。そして、何だか自分が映画の主人公の様になった気分だった。少なくとも『ハムナプトラ』以外の映画の主人公だ。


 俺とナツ、ライカは、病院内へと突入した。

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