13プトラ プトラって何だろう?

「あ……有江ありえ ダンゴって言います。リンゴがお世話になっています……!」


 俺は、背筋をビシッと真っ直ぐにし、とりあえず名前だけの自己紹介をした。


「あら、なんでそんなに緊張しているの? せっかくリンゴちゃんのお見舞いに来てくださったんだから、リラックスしてちょうだいね。」


「は、はい……!」


 正直、返事をするので限界だ。まともな会話は、今のところ出来る気がしない。まさか現実で、中村さん程の方に遭遇することになるとは。


「どうせダンゴは、もえさんの美しさに緊張しているんでしょ? アンタってホントに分かりやすいわよね。でも、もえさんは、女性の私から見ても羨ましいって思うレベルだから仕方ないわ。」


 リンゴは、わざとに皮肉ったらしく言っているようだ。


「ところでリンゴちゃんと、ダンゴくん。ハムナトークしてたけど、何かを言ってたわね?」


「そうなんです! 実は、亜房あぼう先生にも、まだ話せてないんですけど、私、『ハムナプトラ』が観れない体になってしまったみたいで……。その事が恥ずかしくて、どうしても先生にも言えなくて……!」


 何故、リンゴは『ハムナプトラ』を観れない事に対して羞恥心を持っているんだよ。


「確かに、異性相手だと中々話せないわよね。でも大丈夫よ、ワタシがこっそり亜房あぼう先生には伝えておくから。彼は、何でも受け止めてくれるわよ。」


 異性相手って、『ハムナプトラ』はそんなにデリケートな問題だったのかよ? てか、何でこんな会話が普通に成り立ってしまっているのだろうか。


 突っ込みどころが多過ぎて追いつけない。


「萌さん、ありがとうございます!」


 でも、リンゴの肩の荷が下りたのなら、今はそれが一番だ。


「いえ、気にしないで。これがワタシの大事なお仕事だから。」


 中村さんは、眩し過ぎる笑顔でニコッとした。


「ところで、ダンゴくんは、『ハムナプトラ』のこと、どう思っているの?」


「えっ? いや、何と言うか、最近いくらなんでも放送され過ぎかなと。」


「そう……。あ! それよりも退院は、やっぱり明日で確定みたいよ。そのことを伝えに来た筈なのに、ついつい『ハムナプトラ』に反応してしまったわ。じゃあワタシは、出て行くからごゆっくりね。」


 中村さんは、最後に用件を伝えると、サッと部屋から出て行った。俺とリンゴは、その後ろ姿に対して自然と会釈をしてしまっていた。


 リンゴは、明日退院できるのか……。

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