14プトラ 熊のムキさん

「良かったな。明日、退院だってよ。」


 中村さんも居なくなり、再び二人だけの空間となった。


「退院は嬉しいけど、私は『ハムナプトラ』を観れないんだよ?」


 心底悲しそうな表情をするリンゴ。気持ちは十分理解している。


「お前の家に『ハムナプトラ』のDVDがあるだろ? 退院祝いに一緒に観よう。DVDなら、好きな時に観れるじゃん。」


 俺は、リンゴだから辛うじて我慢できるのだ。これが別の人なら、『ハムナプトラ』は、独りで観ろと、冷たく言い放ってやるところだ。


「そうね。じゃあ明日は、一緒に『ハムナプトラ』観賞会ね。でも久しぶりだね……。ダンゴと一緒に『ハムナプトラ』を観るの。」


「あ……ああ。」


 俺は、あの日を忘れない。


 高校の修学旅行の夜、俺は、リンゴに呼び出された。泊まっていた旅館の、誰もいない通路。薄暗く、遠くからは微かに、はしゃいでいる同級生達の声が聞こえていた。


 告白。


 その2文字が俺の脳内に浮かんだ。


「ダンゴ……実はね。私……。」


 俺は、その瞬間、心は天に昇りかけていた。まさか、俺がこんな漫画でしか見たことないような展開に遭遇するなんて。


 しかし、現実は余りにも無情であった。


「こっそりDVDプレーヤー持って来たの。一緒に『ハムナプトラ』を観るわよ。」


「バカヤロォォォオオオ!!!!」


 そう、これがリンゴと観た、最後の『ハムナプトラ』であった。そして、あれから数年の月日が流れ、再び共に『ハムナプトラ』を観る日がやって来ようとは。


 一応、感慨深い。


「何よ? 私と『ハムナプトラ』観たくないの?」


「いや、そんなことないぞ。」


「ほんとかな〜? 段々と顔が曇って来たからさ。」


 俺の本心が顔に現れてしまっていたようだ。当然だろう。


「ダンゴ! せっかく来てくれたんだから、せめて私とハムナトークでもして盛り上がろうよ。」


 俺は、この後、本当に7、8時間、リンゴのハムナトークに付き合わされた。何故、約2時間の映画をここまで語れるんだろう?


 ハムナトークの途中、俺は、リンゴの両親が置いて帰ったであろう、『熊のムキさん』のぬいぐるみと何度も目を合わせた。


 枕元でダンベルを持ったポーズをしている。


 心無しか、『熊のムキさん』も寂しげな表情をしているかのように見えた。

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