5プトラ 壊れたドアの利用法

 救急車の到着は早かった。


 アパートの前でサイレンが止まると、あっという間に部屋の中に3人の救急隊員が入って来た。


 救急隊員は、何故か当たり前のように、俺が破壊してしまった『レオパレス21』のドアを担架の代わりとして利用する。


 寝心地は、悪くないのだろうか?


 運ばれていくリンゴ。俺はその姿を呆然と見ているだけだ。


「すみません、お電話頂いた方ですよね?」


「はい……。」


「いつから様子がおかしくなりましたか?」


 いつからだろう……?


 いつからリンゴは苦しんでいたのだろうか。俺は、たった今この場に来たも同然だ。


「分かりません……。大学に来ていなかったから、気になって様子を見に来ました。」


「そうですか。一緒に乗って病院まで来られますか?」


「はい、行きます。」


 俺は、頭が空っぽのまま救急隊員と会話をし、気がついたら救急車の中に居た。体温や血圧、心拍数がモニターに表示されている。血圧がかなり低い。


「リ……リンゴ……! 大丈夫か!?」


 苦しそうに歯を喰いしばるリンゴに、俺は声をかけた。額は脂汗に濡れている。


「ダ……ダンゴ?」


 リンゴは、俺の方にゆっくりと手を伸ばして来る。そして、朦朧とする意識の中、リンゴは静かに口を動かした。


「ハ……ハム……ハムナプト……ラ……うっ!?」


 ハムナプトラッ……!?


 俺は、その悪魔のフレーズに背中がゾッと寒くなった。本当に小さな声だったが、確かに今、リンゴの口から『ハムナプトラ』と発せられた。そしてリンゴは、『ハムナプトラ』と呟いた瞬間、俺に向かって伸ばしていた手がガクッと宙へと落ちた。


「リンゴォォォオオオ!!!!」


 俺は、救急車の中で絶叫した。


 ついに『ハムナプトラ』は、俺だけではなく、リンゴまでをも苦しめた。

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