10プトラ JKもプトラ

 俺は半狂乱の状態で、ライカに餌と水を与えると、再び家を飛び出した。


 ライカまでもが、『ハムナプトラ』の呪いにかかってしまった。ライカには気の毒だが、俺はリンゴの所へ行かねばならないのだ。


 しかし必ず、ライカも後で助ける。


 小走りでアパートの階段を駆け下りる。いつもより若干、体に力が入ってしまっている為か、足が着地する度にアパートが上下に大きく揺れた。


 俺のアパートの目の前には、バス停がある。


 そこには、『亜房あぼう総合病院』行きのバスがやって来る。結構な本数が出ている為、10分も経たない内に目的のバスが来た。バスの横っ面の電光掲示板に、『亜房総合病院』と書いてあるから間違いない。


 俺は、ガシャンと扉が開くと、整理券を引っこ抜き、足早に最後部の座席を広々と確保した。バスの中は空いていた。


 前の前の席に、制服を着た女子高生二人がいるだけだ。ここだけを切り取ったら、ごく普通の日常である。


 バスは静かに動き出した。


 外の景色でも見ながら、少しぐらいは『ハムナプトラ』のことは忘れよう。こんな時ぐらい、心を落ち着かせなければ。


 完全に油断をしていた。この後、女子高生二人がとんでもないトークを始めてしまう。


「ねぇ!? 昨日のプトラ観た!? 超興奮したんだけど!」


「観たよ! ウチ、録画したし! 帰ったらまた観るんだ!」


「まぢ!? 録画せんでも今夜、また放送するのに!」


「えー、夜まで待てないしぃ!」


 バカヤロォォォオオオ!!!!


 お前ら、女子高生のクセに、何でプトラトークしてるんですか!?


 女子高生が話すような会話じゃないでしょ!?


 てか、せっかく『ハムナプトラ』から解放されたと思ったのになんでだよ!?


 やっぱり今、空前の『ハムナプトラ』ブームなのか!?


 俺だけが時代に乗り遅れてるのか!?


「ウチ、スマホの待ち受け、『プトラ』にしちゃった!」


「まぢ!? 彼氏にバレたら怒られるよ?」


「いや、彼氏も『プトラ』にしてるからお揃いなんだって!」


「は!? 超ラブラブじゃん! うらやま〜!」


 俺は、すっかり放心状態になってしまい、気がついたら『亜房あぼう総合病院』にバスは到着していた。既に恐怖の女子高生二人の姿も消えていた。俺が見てない間に、どこか、手前のバス停で降りていたようだ。


 俺も運賃を支払い、死んだ顔をしてバスから降りた。


 リンゴに会おう。

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