11プトラ 謎の病

 病院の入り口を抜けると、真っ白で、巨大な空間が現れる。そこを大勢の人々が行き交っている。入院患者、お見舞いに来たであろう家族、看護師、ドクター。


 また、入り口を抜けてすぐの所に、亜房あぼう先生の上半身だけの銅像が置いてある。


 その隣に、薄い冊子が山積みに置いてあり、『人間ドック、受けてみませんか?』と書かれていた。


 俺は、それを横目にエレベーターを目指す。リンゴは、8階の部屋にいる。入って少し歩いた所にあるエレベーターホールを目指した。


 ちょうど、エレベーターが1階に来ているのが見えたので、迷惑にならない程度の最低限の走りで中へと入り込んだ。


 8階に上がるまで、2、3分はかかった。各階に止まるので、中々辿り着かない。焦れったかった。


 そして、ようやく8階で扉が開く。


 リンゴの部屋は、867号室。エレベーターから降りると、日差しの入らない暗い廊下を真っ直ぐ進む。


 こんなに暗い病院で入院する患者は、ますます気分を害さないのだろうか?


 余計なお世話だろうが、そんな心配をしてしまった。しかし、有名な『亜房あぼう総合病院』なんだから大丈夫なのだろう。


 リンゴの部屋は、エレベーターを降りて、真っ直ぐ進んだ先の一番奥だ。部屋の前まで辿り着くと、念のため、『結城ゆうき リンゴ』と書かれたプレートを確認し、俺は静かにスライド式の扉を開けた。


 小さな個室だ。


 俺は、そっと中に足を踏み入れた。果たして、リンゴの意識は戻ったのだろうか?


 ベッドが見える。リンゴの足元が最初に見える。そして、段々目線を顔の方へと持って行った。


「あら、ダンゴ。」


 俺はドキッとした。


「リ……リンゴ! お前、大丈夫なのか!?」


 なんと、リンゴの意識は戻っていた。


「うん。昨日の夜、目が覚めたんだ。」


「そうか……。」


 俺は、心の底から安堵した。このままリンゴの意識が戻らないのではないかと、最悪の結末を考えてしまっていた。でも、リンゴはしっかり今、喋っている。


「気分は大丈夫なのか?」


「うん。大丈夫だよ。だけどね、私……二度と『ハムナプトラ』を観れない体になってしまったみたいなの。」


『ハムナプトラ』を観れない体?


 それは一体どういう事なんだ?


「お母さんがね、昨日、夜に『日曜洋画劇場』で『ハムナプトラ』があるから、それを観て元気出しなさいって言ったの。」


 そう、リンゴは『ハムナプトラ』の大ファンである。三度の飯より『ハムナプトラ』なのだ。毎晩、必ずDVDで鑑賞する程だ。


「でもね、昨日は火曜日だし、当然『日曜洋画劇場』は無かった! それに、『ハムナプトラ』も放映されなかった……! お母さんが嘘つく訳ないし、今日は病院内でも昨夜の『ハムナプトラ』の話題で持ち切りだったの。私のいる世界だけ、『ハムナプトラ』が消えちゃった……。」

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