9プトラ 壊れたドアは壊れたまま
まさか、朝から『日曜洋画劇場』が放送されるとは思ってもいなかった。お陰で、疲労がさらに蓄積されてしまった。
テレビは危険だ。
そうだ、さっさとリンゴのお見舞いに行こう。まだ、少し寒さも残る季節だった。なのに、俺の額からは汗が噴き出していた。
静かな朝だ。窓越しの外は、本当にいつもと変わらない筈の朝なんだ。だけど、『ハムナプトラ』のせいで、普通の日常からは、かけ離れてしまっている。朝とは、こんなに憂鬱なものだったのか。
特に、リンゴのいない朝は、辛かった。
ああ、何処かの空でヘリコプターが飛んでいる。何か事件でもあったのだろうか? 最近、やけに飛んでいるな。
ヘリコプターのお陰で、俺の憂鬱な朝は終わりを告げた。
あまり塞ぎ込んでなんかいないで、さっさと行動しよう。リンゴに会いに行こう。
俺は自分に喝を入れ、ベッドから立ち上がった。
とにかく死ぬ気で歯を磨いて、私服に着替えて、まだ眠気が残る目を擦り、外の世界へと飛び出した。
温かな太陽の光だけが、『ハムナプトラ』から受けた心の傷を癒してくれる。
「あ……。」
俺は、担架の代わりに使われたドアが無いままのリンゴの部屋を見て思い出した。そう言えば、リンゴの愛猫、ライカの存在をすっかり忘れていた。
逃げ出していないか、慌ててリンゴの部屋を覗き込む。
だが、俺の予想に反して、玄関にライカがちんまりと座っていた。
「リンゴが帰るまで俺の家においで。」
俺は、ライカを抱き抱えると、自らの部屋へと戻った。ライカは、俺の腕の中で丸くなっている。
ああ、猫の匂いだ。
ずっとこのまま抱いていたいが、俺は玄関で優しくライカを解き放った。
「リンゴの所に行ってくるからな。」
俺を上目遣いで見つめてくるライカに優しく語り掛ける。すると、とんでもない返事が返って来た。
「ハムにゃ〜。」
え……?
今の鳴き声、気のせいだよな?
俺の聞き間違えだよな?
ハムにゃ〜って何だよ?
「プトにゃ〜。」
ハ、ハ、ハ、ハムにゃ……プトにゃ……!?
世の中に、ここまで可愛さと恐怖が混在したフレーズが存在してもいいのだろうか? 俺は、玄関でフリーズした。
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