32プトラ プトラ菌

「やっと全員、お目覚めダッシー!」


 ダッシーオネェは、嬉しそうな表情をしている。相変わらず濃い口紅しやがって……!


「ここから出してよ……! 酷いわ!」


 リンゴが叫ぶ。


「ダシダシダシ! 君らのお陰で、アタシらの研究はさらに加速したダッシー! 『全人類プトラ化計画』は、これより完全な物になるダシよ! プトラ神は、アタシらに微笑んだダッシー!」


 全人類……プトラ化計画?


 なんだ、そのふざけた計画は。


 しかし、ふざけた計画ではあるが、実際、日本中がおかしくなっているのは事実である。このままじゃ、国が滅びる。それ程までに、俺らが目の当たりにして来た現状は、酷い有様なのだ。


「計画の進展を祝して、これからアタシらのボスが顔を見せてくれるみたいダシよ!」


 ボス……だと……?


 ダッシーオネェの言葉と共に、鉄格子の奥にある扉がギシギシと音を立てながら開いた。扉の奥は眩しく、とある一人のシルエットがそこに浮かび上がる。


 俺は、そいつを知っていた。


 女性の様な白い肌。透き通る瞳。か細い手足。


「ダッシー、いつもありがとね。あとで……ご褒美を受け取って。」


「ありがたき幸せダッシー!」


 そう、俺らの前に姿を現したのは、この病院の委員長である亜房あぼうであった。


「あ……亜房あぼう先生!? そんな……先生が悪者だったの!?」


 驚きのあまり、声を震わしているリンゴ。


「そうだよ。『全人類プトラ化計画』は、ボクの手中で繰り広げられている物語さ。もう、この世界は間も無く終わりを告げるんだ。有江ありえ ダンゴ、結城ゆうき リンゴ。君ら二人のお陰で、計画は成功したと言っても過言じゃないよ。」


 俺らのお陰で計画が成功だと? どういうことだ?


結城ゆうき リンゴの血液中から、『プトラキラー細胞』が見つかった。つまり、『プトラ菌』を殺す免疫細胞だ。そして、結城 リンゴの側にいた有江 ダンゴにも、『プトラキラー細胞』が存在していた。」


 プトラ菌? プトラキラー細胞?


 何を言っているんだ、コイツは?


「ボクは、ある日……。『ハムナプトラ』のDVDパッケージの表面から、新種の菌を発見したんだ。『プトラ菌』と名付けた。それが、『全人類プトラ化計画』の始まりだった。」


 俺らは、予想だにしていなかった展開に言葉が出なかった。

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