4プトラ 話題の物件

 これは授業どころではない。


 昔から、どんなに高熱が出ようとも学校を休むことがなかったリンゴだ。何か、リンゴの身に起こっているに違いない。


 俺は、せっかく来た筈の大学だったが、再び家へと戻ることにした。


 全力で来た道を走る。


 頭の中には『リンゴ』の安否と、やはり『ハムナプトラ』。どうも俺の中では、『ハムナプトラ』が関係している気がしてはならなかった。


 今度は、家までの距離が短く感じた。それだけ無我夢中で走ったのだ。俺とリンゴが住んでいるのは、アパートの2階だ。階段を駆け上がり、リンゴの部屋をノックする。


「おい、リンゴ……! 大丈夫か!? 居るのか!?」


 ドア越しに叫ぶ。ドンドンと拳で叩く。それからドアに耳を当て、中の音に注意を向けてみる。


 無反応か?


 いや、微かにだが、リンゴが飼っている猫のライカの鳴き声は聞こえる。俺に助けを求めているかのようにも聞こえる、ひ弱な声だ。


 もう迷っている暇は無い。


「リンゴ……! すまん、開けるぞ!」


 俺は、ドアノブを思い切り引いた。鍵がかかっていたが、『レオパレス21』のドアは脆く、俺の力でもドアごと捥ぎ取ることができた。


 外れたドアを廊下に立て掛けて中に入ると、すぐさまスニーカーを脱ぎ捨て、下駄箱の上にいたライカの頭を軽く撫で、そしてリンゴの部屋へと飛び込んだ。


「おい、リンゴ……!」


 目に飛び込んで来た光景は、ベッドの中で顔面蒼白になっているリンゴ。これはただ事じゃない!


「大丈夫か!? リンゴ! どうしたんだ!?」


 俺は、慌ててリンゴの側へと駆け寄った。呼吸が荒く、意識が朦朧としている。


 迷わずに救急車を呼んだ。それ程までに酷い状態であった。


「ダ……ダンゴ……。この前は……ごめんね……。」


 俺に気づいたリンゴは、苦しそうに言葉を発した。


「今、救急車呼んだからな! 喋らないでいいし、謝るなよ!」


 リンゴの方から謝って来た。こんな状況で謝って来るなんて卑怯だぞ……。


 そして間も無く、沈黙の部屋に救急車の音が近づいて来た。

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