22プトラ 薄い壁

 恐怖は十分に感じている。


 だけど、全く状況が理解できない。


 ただ一つだけ、理解できることがあるとしたら、やはり俺らの住む『レオパレス21』のドアは、意味を成していなかったという事だ。少しも防犯の役割を果たしていないじゃないか。


 二人のオネェが静かに俺の家へと侵入して来る。


「ダンゴ……! ここは私に任せて!」


 ナツが拳を構える。いくら、『少年ジャンプ』が好きだからって強さまでは得ている訳ではない。しかも、相手は一応男なのだ。


 性別は定かではないが。


「おりゃあ!」


 バカヤロォォォオオオ!!!!


 なんとナツは、オネェ二人に殴りかかるのでは無く、体の向きをクルッと転換させ、壁をパンチで破壊してしまった。


 完全に砕け散った壁。


 てか、俺の家なんですけど、どうしてくれるの?


 リンゴの家と完全に繋がったんだけど。


 逃げ道が出来てしまった。


「ダンゴ! 逃げるわよ!」


「お、おう……!」


 確かに手段は選んではいられない。俺は、ライカを抱えると、ナツと一緒に壁の穴を抜け、隣のリンゴ宅へと侵入した。


「ダンゴ! しっかり私についてきてね!」


 なんとナツは、そう言うと続けて隣の壁までをも破壊してしまった。全く知らない人と、リンゴの部屋までもが繋がる。


「あらやだ! 強引に逃げ始めたわ! さくも! 追うわよ!」


 オネェ達の声が後ろから聞こえる。とにかく急いで逃げなければ。俺らは、リンゴの部屋から知らない人の家まで移る。


「ナツ! どこまで行くつもりだよ!?」


「これで、最後よ!」


 ナツは、再び壁を拳で破壊した。


「この穴はフェイクよ! 私、『ハンターハンター』で読んだのよ。これで普通に入り口から外へ出るわよ!」


 成る程。小細工しているのを背後から見られているが、ツッコミを入れる暇など無い。


 一応、俺も『ハンターハンター』で読んだことがある。俺とナツは、急いで扉から外へ飛び出した。廊下を駆け、階段を一気に降りる。


 余りにも激しい動きをした為、やはり建物全体が大きく揺れている。


「念のため、階段も破壊しとくよ!」


 ナツは、階段を支えている柱と壁を連続して蹴り飛ばした。ミシミシと音がし出すと、一瞬にして階段は崩落する。


 これで、あのオネェ達を足止めできるのは間違いない。


「よし、とりあえず大学の方まで逃げよう! 人が多い所に紛れた方がよさそうだ!」


「そうね……!」


 突然のオネェ襲来。やはりアレもプトラが関係しているような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る