25プトラ 黒棺

「でも、『亜房あぼう総合病院』までどうやって行くの!? ここからだと、車やバスに乗らないと時間がかかるよ!」


 確かに距離はある。だけど、迷っている暇は無い。どんな手段を使ってでも行かねばならないのだ。


 その時だった。


「アンタ達! そこまでよ!」


 俺の心臓は止まるかと思った。声が聞こえた方向へ振り返ると、俺の背後数メートル先に、あのオネェ達がいたのだ。何故、こんなにあっさり見つかってしまったのだろうか? 完全に逃げ切ったと思ったのだが。


「ダンゴ……! 逃げるよ!」


 再び逃走を図ろうとする。だが……。


「動いちゃダメよん?」


 なんと、オネェ女が俺達に拳銃を向けて来た。本物かどうかなんて関係ない。銃口を向けられれば、自然と体は臆する。


 俺の体は固まってしまった。


 同様に、後ろのプトラ化した人達も、何故か一緒になって固まってしまっている。しかも両手を挙げ、降参していた。


「さくも! アンタがこの二人を捕まえなさい!」


「ええ!? アタシがやるの?」


「アタシは銃を向けるのに忙しいのよ!」


「仕方ないわね。月岡つきおか姐さんのお願いなら仕方ないわ。」


 さくもと呼ばれる方のオネェが、俺らに接近して来た。俺は完全に、足が恐怖で萎縮してしまい、動かない。


 だが一方。


「あなた達ね、何者か知らないけど、私の力を見くびっているわね?」


 突然、ナツが右手を天高く構えた。


 この場において何をする気だ。相手は、狂ったヤツらなんだぞ!


にじみ出す混濁の紋章! 不遜ふそんなる狂気の器! 湧き上がり・否定し・しびれ・瞬き・眠りを妨げる! 爬行はこうする鉄の王女ッ! 絶えず自壊じかいする泥の人形ォ! 結合せよ! 反発せよ! 地に満ち、己の無力を知れッ! 破道はどうの九十『黒棺くろひつぎ』!」


 バカヤロォォォオオオ!!!!


 完全詠唱の『黒棺くろひつぎ』を放ちやがった!


 正気ですか!?


 いや、正気じゃないよね!?


 バカなの!?


 俺ら、殺されるよ!?


 勿論、ナツには霊圧れいあつが存在する筈もないので、『黒棺くろひつぎ』は不発に終わった。


 しかし、オネェ二人を挑発するには十分過ぎる威力を秘めているだろう。下手したら、この場で殺される。


 しかし。


「さくも! ここは一旦引くわよ! コイツら、やはり只者じゃないわ!」


「そうね、月岡つきおか姐さん!」


 オネェ二人は、何故か逃亡を図った。そして、周りにいたプトラ化した人達も蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。

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