7プトラ ハムナプトラタイム

 リンゴの意識は、その日戻る事はなかった。


 検査の結果、身体には異常が見られなかったらしい。しかし、俺の中では『ハムナプトラ』に対する不安感というか、憎悪にすら近い感情が強まっていた。きっと、『ハムナプトラ』がリンゴの精神を蝕んでいるに違いないのだ。


 そして、リンゴが眠っている元へ、リンゴの両親も実家から慌てて駆けつけた。


 俺らの地元は山形県だ。現在は、都内の大学へ通っているのだが、俺は、リンゴのお母さんの連絡先を知っていたから、直接連絡することが可能だった。駆けつけたリンゴの両親は、真っ先に俺に頭を下げ、そして俺に対し、今日は家に帰るよう促してきた。


 リンゴの事は両親に任せよう……。


 正直、このまま意識の戻らないリンゴの前に居たら、俺まで倒れてしまいそうだった。しっかり今日は休んで、また明日訪れよう。共倒れするわけにはいかない。


 俺は、病院からバスに乗り、一人寂しく家へと帰った。今夜の日曜洋画劇場が始まるまで、大人しくベッドの中へと入っておこう。


 恐怖の時間が訪れるのを待っていた。


 観たくはないのだが、気になってしまうのが人間というものだ。せめて、本当に『ハムナプトラ』が放送されるのかどうかだけは確認しておこう。


 そして間も無く、『日曜洋画劇場』が始まる時間が訪れた。今日は一体何を放送するって言うんだ。


 恐らく『ハムナプトラ』だろうが……。


 俺は固唾を飲み、テレビへと釘付けになる。いよいよ始まる。時計が21時を示した。


『さぁ、今夜の日曜洋画劇場は、なんと三日連続のハムナプトラだぁ! 驚いただろ? 一体いつから、今日が日曜日じゃないと錯覚していたぁ!? 本当にハムナプトラを三日連続で放送しちゃうぞぉ! でも嬉しいだろう? 今夜もテレビの前で大興奮してくれよな! それでは、レッツ……ハムナプトラァ!』


 もう、馬鹿野郎と心の中で叫ぶ力も無かった。しかし、このまま観続けたら、間違いなく精神がおかしくなるのは目に見えている。


 俺は、恐怖で震えながらチャンネルを変えた。しかし、それが更なる恐怖を味わう羽目になってしまったのだ……。


『なんとぉ、今夜はいいお知らせがあるぞぉ! 大好評につき、全てのチャンネルでハムナプトラを放送しちゃうぞぉ! この時間帯は毎日がハムナプトラタイムだぁ! 存分に楽しんでくれ! それでは、レッツ……ハムナプトラァ!』


 バカヤロォォォオオオ!!!!


 全身の力が抜け、俺は残った力でなんとかテレビを消し、その晩は、現実から逃げるかのように眠りへと就いた。

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