月曜日

1プトラ 洋画好きの幼馴染

「ほら、起きなよ……! 遅刻するよ! ねぇってば!」


 あれ? もう朝なのか?


 俺は、カーテンの隙間から入り込んで来る日差しの温かさを感じながら、静かに瞼を開けた。ぼんやりとしていた視界が段々と晴れ渡る。


 俺の顔を、同じアパートの隣に住む、幼馴染の結城ゆうき リンゴが覗いていた。彼女とは奇しくも、小・中・高どころか大学まで一緒の進学先になると言う運命を辿っている最中である。


 同じクラスにも、何度なったことか……。


 念の為に断っておくが、リンゴは俺の彼女と言う訳ではない。ただ、お節介なリンゴは、俺に対していつも母親の如く接して来るのだ。しかし、俺もそれに甘えていて、家の鍵はこのように閉めていない。寝坊した際には、このように起こしに来てくれるからだ。


 今日も助かったと、心の中で思う。


「あ、リンゴ……おはよう。」


「おはよ。アンタが月曜日に寝坊って珍しいじゃない? いつも、『日曜洋画劇場』を観た日の晩は快眠って言ってるじゃん。」


 そう、通常であればそうなのだが、今週は事情が違うだろ。だって、二夜連続で『日曜洋画劇場』を……しかも、また『ハムナプトラ』を放映するんだぞ。


 俺は、一晩にして精神を蝕まれた気がする。


「リンゴ……お前、昨日の『日曜洋画劇場』の予告観たか? アレ、どう考えても異常だろ。」


 俺は布団を退け、上体だけを起こし、俯きながら静かに言った。昨日の予告ナレーションの声が、今でも脳内で反響している。


「ダンゴ、何言ってるの? 変な夢でも見てたんじゃないの?」


「……え?」


 アレが夢? そんな筈は無い。本当に鮮明に覚えているんだ。あの映像を、あの声を。


「いや、だって……今日も『日曜洋画劇場』があるんだぞ? しかも、また『ハムナプトラ』!」


 俺は、ついムキになって、強い口調で言葉を放ってしまった。


「私が『ハムナプトラ』の大ファンだからって、からかってるの!? 大体、今日は月曜日なのよ! しかも、来週は『ダイ・ハード』って言ってたじゃない! せっかく起こしに来たのにダンゴって最低! ちゃんと目を覚まして、一人で大学に行ってくださいね!」


 リンゴは、完全に機嫌を損ねてしまい、俺の部屋から出て行った。玄関のドアを激しく閉める。


『レオパレス21』に住んでいるのだから、もう少し近所に気を遣ってくれよ。


 俺は、しばらく布団から出ることが出来ずに、結局その日は大学をサボってしまった。


 しかし、何故だ。


 来週が『ダイ・ハード』だって?


 俺は確かに今日、『ハムナプトラ』を放映するって聞いたんだ。月曜なのに『日曜洋画劇場』を……。


 二夜連続の『ハムナプトラ』を……。


 俺が夢を見ていたとも思えないし、逆にリンゴが夢を見ていたとも思えなかった。


 だから、不安だった。

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