ＴＥＡ ＰＲＩＮＣＥ 死した絆で燃え上がり、赤き命を解き放て。

０.大戦の記憶編

『帝国の章』

第01話 戦場を駆ける火

　――フェイズ５３３年の初夏。

　無限の空の下で、血を流し合う人間達がいた。

　今、とある王国による籠城戦が繰り広げられている。

　大地にそびえ立つ巨大な城。

　その城の向かい側の山に、布で仕切られた敵の本陣があった。

　そして、城のてっぺんには甲冑を纏った老人が見下ろしていた。

　口や鼻の下にこれでもかというくらいに蓄えた白髭。

　それは威厳を表している。

　王。

　この国を統べている王だ。

　だが、王はとても困惑している。

　眉間や皺が、凄く寄せていた。

　そんな王の心を知らずに、大地の上で、戦士達が懸命に戦う。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおー!!」

　剣や槍を手に、次々と走っていく。

　走る度に甲冑の音が響き、それが数百、数千人ともなれば轟音にもなった。

　迎え撃つは暗黒の大軍。

　その規模は圧倒的で、本来見えるはずの美しい緑が埋め尽くされる程。

　荒々しく突撃してくる王国側に対して、暗黒の大軍は静寂に、敵が向かってくるのを待っている。

　そして、ある程度近付いて来た所で行動を起こした。

　戦士達ひとり一人が両掌を開くと、眩い火花が激しく走り始めた。

　火花は掌の中で次第に大きくなっていくと、黄金の如く強く輝き、辺りを眩くさせる。

　それが前列の数百人ともなれば、強大な光と化した。

　王国側も流石に足を止めて、その脅威に対抗すべく打開策を取る。

「怯むな！　『幻想術』を発動しろ！」

　王国側が手を前に出すと、今度は砂塵が手の中で生まれた。

　更に砂塵が集まると、土砂となり、厚く、そして高く積まれていき、天に届くかくらいの壁となった。

　鉄壁が作られた直後、暗黒の大軍が遂にその光を放った。

　流れていく光に一切の揺らぎはない。

　大地に広がる草原が瞬く間に灰となっていく。

　草原に意思があるとするならば、草達は灼熱に苦しみながら、あっけなく死んだだろう。

　だが、王国の壁だって負けてられない。

　天の光すら遮る巨壁だ。

　これだけ大きく、そして厚ければどんな攻撃だって耐えられるはずだ。

　そう思っていた。

　轟音。

　それは、砕け散る壁が発していた。

　壁だった岩石、岩石だった土砂は弾け飛んで、戦士達と共に野太い光の中で無に返った。

　運良く、生き残った戦士達は腰が抜けて動揺する。

「ば、バカな。土が雷に負けるなど……」

　その光は雷だった。

　だが大多数で放たれた雷は珊瑚の様には分かれず、逆に集結する事で威力を増大させて一本の光になったのだ。

　恐ろしい事に、雷だった光は巨壁の破壊だけには飽き足らず、向こうの城まで届いてしまい、城壁に穴を開け、木造部分に煙を立たせた。

　――こんなものか。

　その様子を、本陣の奥にいる男が不敵に笑った。

「ひ、怯むな！　隙を逃すな！　雷を溜めている間に突っ込め！」

　残った王国側の戦士達は巨壁だった石ころに気を付けながら改めて突撃する。

　今、暗黒の大軍が率いている前列の戦士達は皆膝を付いて息を荒くしている。

　彼らに戦える力は残っていない。

　せめて後方の部隊が前進できる様に、速やかに横へ広がり、撤退した。

　撤退が完了した所で後方の部隊が一気に駆け出す。

　両軍が得物を持って突撃した。

　そんな中、異様に目立つ光景が現れた。

　暗黒の大軍から一人の戦士が抜き出て来たのである。

　他の戦士が黒か深い紫の甲冑を纏う中、その戦士だけは真っ赤な甲冑を纏っていた。

　それは、まさに一番槍。

　手に持った得物は槍、その槍で次々と切り裂いた。

　ただでさえ真っ赤な甲冑は、飛び散った血でまた深く染まる。

　切り裂かれた腕や首、それに応じた激しい悲鳴には気にも止めなかった。

　無我夢中に槍を振るい、敵の城へ向かっていく。

　本陣にいる男が再び呟いた。

　――相変わらずおかしな奴だ。

　真っ赤な甲冑、赤備えの男は進軍を止めない。

　王国側の戦士は次々と倒されていったが、それでも諦めずに奮闘した。

　ある戦士は剣に力を込めて豪快に振るうが、赤備えの男には一瞬で避けられてしまい、槍で貫かれた末に強靭な脚による蹴りを入れられてしまった。

　戦場を駆ける赤備えが今、刻々と城に迫る。