第69話 猛る角

 ダージリンは刀を取り出し、炎の刃を作った。

 既にボケンは目の前まで迫っていた。

 猪突猛進ともいうべき勢いに屈せず、刀を上に構えながら炎を纏わせ、跳び上がった。

 燃え上がる斬り技、炎(ほむら)の一閃。

 刃が、ボケンの脳天を狙って振り下ろされたが、ボケンの勢いは炎と刀をものともせず、逆に弾き返した。


 手から離れていく刀に、一瞬ダージリンは気を取られてしまい、その隙にボケンに拳を食らってしまう。

 拳が腹にめり込み、体が吹っ飛んでいく。

 薪の山が今、豪快に崩れた。

 宙を舞った薪がダージリンの頭に一本、二本と落ちていく。


 薪と一緒に頭も落ちそうになった。

 そんな事をしている内にボケンが再び襲い掛かって来た。

 ダージリンは落ちた薪を両手に、炎を纏わせて投げつけると、薪はボケンの両眼に当たった。

 両眼を手で覆い、怯んだ隙にダージリンは薪をもう一本拾うと、薪の中心に熱い紐を繋げた。


 炎の縄を右手でゆっくり振り回し、回転を増していく。

 勢いが付いたのを確認した所で、思い切り投げた。

 炎の縄がボケンの顔面を凹ませる。

 薪が燃え尽きた所で、ダージリンはボケンの肩を飛び越え、背中に回り込むと炎の縄で一気に、ボケンの首を絞めた。


 炎の縄を床に付け、ダージリンは再び新しい炎を放つ。

 その炎もまた縄の様に、今度はボケンの右腕を絞めた。

 その動作を繰り返し、ボケンの周囲を跳びながら左腕、右脚、左脚、膨れ上がった腹部を封じた。


「ぐおお……こんなものォォォ!」


 ボケンは両腕に力を込めた。

 両脚も同様、漲る力で縄を震わせ、強靭な炎を引き千切った。

 体の自由が利いた瞬間、ボケンは拳を再び振り下ろす。

 炎を千切られ、ダージリンは動きが止まってしまった。

 ボケンの拳を避けるには間に合わない。


 両腕を顔の前で交差し、構えた。

 ところが、ボケンの拳は来なかった。

 逆にボケンが、何かに当たってまた家の奥に吹っ飛んだのである。

 奥にあった机が豪快に崩れ、木片の絨毯と化す。

 ダージリンは交差していた腕を解くと、ブランドンが乱れた息で立っていた。


「だ、大丈夫?」

「どうって事ねえ。怠いが休んでいるわけには行かねえだろ」

「だけど……」

「おい! また来るぞ!」


 ブランドンの身を案じる中、ボケンが再び立ち上がり、向かって来た。

 猪突猛進とも言うべき速さで、ボケンはブランドンの顔を掴み、続けざまにダージリンの顔を掴んだ。

 二人を連れて、壁を壊しながら外へ出たボケンは、豪快に飛び上がり、急降下した。

 煉瓦造りの道路が吹き飛んでいく。

 砕け散った煉瓦は家の窓を割り、花壇の花を潰した。

 手応えを感じた様にほくそ笑むボケン。


「どーだ? オレの力を見くびるな」


 ボケンの手の中で、ダージリンは腕を伸ばした。

 その時、ボケンは自分の顔を手で覆った。

 突然、目の前が真っ赤に燃え上がったからだ。

 ボケンの手から解かれたところで、ダージリンとブランドンは後ろへ回ると、ブランドンは拳を掌で包み、肩を前に突き出して駆け出した。

 豪快に押し出し、壁へ激突させてから更に両拳を繰り出すと、ボケンの胸が潰された。生々しい血を吐き出したボケンに、ブランドンは容赦なく拳を加える。


 猛牛流闘獣拳――角弾頭・乱打。


 千手の拳がボケンの体を潰していく。

 瞬く間に放たれる拳にボケンは吼えながら、両腕を重ねた。

 だが、ブランドンの勢いは止まらない。

 拳を角にして、荒れ狂う野牛の様に猛打を浴びせた。

 その勢いに乗って、ダージリンも拳に火を纏わせて、ブランドンが止まった隙を見て、ボケンに一撃を与えた。

 赤き炎がボケンを飲み込み、肌の焦げが広がっていく。

 炎に押し出されたボケンは、壁に激突。

 煉瓦が砕け、飛び散った。


「ブタ野郎! 人間(おれたち)を舐めんじゃねえ!」


 両拳を上下に合わせて、ブランドンの技『牛怒鈍』が炸裂する。

 それに続いてダージリンも拳を握り、炎を纏わせて殴った。

 牛怒鈍が開けた穴に、フラムフィストが放たれる。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 炎に呑まれながら、ボケンは大きく飛んでいく。

 その巨体はやがて倒れ、首が落ちる様にボケンは気絶した。

 ボケンを包んだ炎がダージリンの手の中に戻っていく。

 ダージリンとブランドンは、その場で崩れ落ちた。

 大の字に寝込むブランドンに対して、ダージリンは片膝を付き、息を整えた。


「な、何とか、倒したぜ。俺の奥義のおかげだな」

「……ああ。そうだね」

「なあ、ところでお前は――」


 二人の会話を切る様に、騒ぎに気付いた民衆とカメリア騎士団の騎士達が駆け付けた。


「こっちだ!」


 ダージリンは膝を上げて、振り返った。


「お、おい待て。 お前……は……一体……」


 ブランドンは呼び止めようとしたが、既にその背中は屋根を上り、見えなくなっていた。

 焼き焦げたボケンが拘束される中で、ブランドンの瞼は重くなり、真っ黒となった

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