第24話 二人の時間
それぞれの昼食を片手に屋上へ脚を踏み入れた。
雲一つもない晴天に恵まれたが、虚しげに置かれてある細長い椅子に、リールフが腰を下ろすと、後から続く様にミーナも隣へ座る。
紙袋に入ったパンには野菜やハムが挟まれており、少し握れば零れて来そうだ。
リールフは具沢山のサンドウィッチを頬張った。
すると、口の中でシャキシャキと響く野菜に染み出るハムの脂が混じわり、味覚が刺激される。
だが、リールフは顔色一つも変えずに噛み続けた。
ミーナも持参してきたお弁当箱を開け、中にある艶の入った白いご飯をお箸で食べ始めた。
少しの間、黙々とした食事が続く。
「一口ちょうだい」
途中、リールフが食べていたサンドウィッチを、ミーナは欲しくなってしまい、彼におねだりし始めた。
リールフは何も言わず、だからと言って嫌悪な顔も浮かべず、静かにサンドウィッチをミーナの口に近づけた。
「ありがと」
ミーナは微笑みを返すと、サンドウィッチにかじりついた。
モグモグと口を動かす様子をリールフは見続ける。
味わっている。
とても嬉しそうだ。
「美味しい」
サンドウィッチを頂いたミーナは、自身のお弁当から少し冷めたから揚げをお箸で掴むと、リールフの口元へ運んだ。
「はい。お礼」
所謂『あーん』のシチュエーションだと理解してしまい、思わず視線を逸らすリールフ。
「食べないの?」
その一言がリールフを動かした。
頬を少し染めながら、から揚げにかぶりつく。
俯いたままだが、鶏肉の淡白な旨味を最後まで実感し、そして飲み込んだ。
「……美味い」
「ありがとう」
呟く様にお礼を言うリールフに、ミーナは満面の笑みを浮かべた。
お日様の下で食べる昼食はご馳走であった。
暫くして、ミーナがお弁当を食べ終えた。
ミーナは弁当箱を閉ざすと、リールフの前に立ち上がり、両腕を彼の肩に掛けた。
リールフも残りのパンを口に入れ、それを飲み込むと汚れた手をズボンで払い落としてからミーナの腰に回す。
そして、見つめ合った。
「今日のアレなに?」
「アレじゃあわかんねえよ」
「ほら、『騒ぎ過ぎだ。静かにしてくれ』って奴。あれマジ受けたんだけど」
「本当に騒がしかったのに何がいけねえんだ?」
「お堅いね。皆引いてたけど、私は吹き出しそうで死ぬかと思ったのに」
「そのまま死んでろ」
「もう。ちょっとは素直になれば? あれよりはキモくないよ」
「……ふん」
鼻であしらうリールフに、ミーナは顔に手を添えて微笑む。
応える様にリールフは背中に回した手をギュッと抱き絞め、ミーナの中に入り、その温もりを味わった。
心地良さに目が垂れる二人。
その微笑ましい様子を、三色団子の様に並んで歯ぎしりする者達がいた。
「お、俺もあんな青春を送りてぇ……」
「こんにゃろ~! イチャイチャしおって~!!」
滝の様な涙を流すブランドンと、紙の筒に差された管を噛むアクバル。
握られた筒は苦しむ様に管からジュースを吹き出していた。。
それを一番下から呆れるスティーブもいた。
「ねえ二人とも。よその子達でイライラするのは駄目だよ」
「アカン! 何も面白うないわ!」
近くにあった長椅子に不貞寝するアクバル。
腕枕と脚を組みながら愚痴を吐いた。
「たく。今日はつまらへんな。ダージリンも『今日はお父さんと喧嘩して苛立ちが止まんないからあっち行って』って締め出すしよ~!!」
ブランドンは持っていた大きいお握りを焼け食いし始めた。
零れていくお米は全て太鼓腹につき、それを拾って口にするが、スティーブには眉間を寄せられた。
「俺も彼女欲しいねん。どこぞに綺麗な髪で静かーな感じの可愛い子ちゃんおらんかな~?」
「お前には、精々気が強い男みてぇな女しか寄って来ねーよ」
「言っとれ。米零す牛には一生来んわ」
「なんだと!」
アクバルの理想を、ブランドンがお握りを食べながら指を差す。
皮肉のぶつけ合いを始める二人に、スティーブは腕を組みながら溜息を零した。
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