第05話 戦国の終結

 十三年後のフェイズ546年。

 広々した王座の間。

 だが、これでもかというくらいに正装した人々が集まっている。

 王冠を被った各国の代表者達。

 皆、お互いの顔を合わせながら冷や汗を掻いていた。


 配置されていた音楽隊が一斉に演奏を始める。

 響き渡る喇叭に、轟く太鼓。

 音が交わり、今日という日を祝福していた

 演奏が終了し、王座に座っていたアンビシオンが腰を上げた。

 多くの人々に注目される中、ゆっくりと前へ進む。

 堂々と張った胸。


 瞳を一切震わせないその姿は圧倒的だ。

 いよいよ皇帝の演説が始まる。

 人々は口を噛み絞めた。


 ――皆の者、この度は集まってくれた事に感謝する。特に遠方から来た者達は長旅ご苦労であった。


 ――本題に入ろう。我がソーマザードの為に、命を懸けてくれた者達のおかげで、遂に『世界』は『一つ』となった。


 ――この『結果』の為に、多過ぎる犠牲が出た。親兄弟は勿論、愛する妻や子供を亡くした者もいる。それは敵だった諸君は勿論の事、我がソーマザードも同じだ。幾ら力を持とうと犠牲は必ず出てしまう。俺も息子を失った。戦でな。


 ――俺は『魔王』にならざるを得なかった。憎しみを残さない為に可能性から全て消し去り、確実な結果だけを残した。きっと今も、俺を憎み、命を狙っている者達がいるだろう。


 ――しかしだな、俺はそんなくだらん憎悪に屈する様な小者じゃない。俺は『魔王』だ。刃向かう者は全員殺してやる。覚悟のない者はさっさと諦めるんだな。


 ――良いか。今までの事は全て前座に過ぎん。俺が望むのは『これから』の事だ。


 ――世界は一つとなったが、つまりは全てを背負う『責任』が俺に掛かったという事。些細な不祥事は絶対に許されないし、お前達の夫婦問題に『くだらん』の一言も言えず、渋々突っ込まざるを得ないだろう。


 ――はっきり言えば、俺はこの先の目処が立っていない。俺は世界の王となったが、そのやり方が全くわからない。国一つの政治とはわけが違うのだ。


 ――後の者達に恥をかかせたくない。良い前例を、相応しき歴史を残したい。


 ――だから諸君の力が必要だ。過去に囚われず、現在いまを突き進み、未来を築く。


 ――それが、我々の出来る事であり、やるべき事なのだ!


 ――我がソーマザードこそ、この世の真理である!


 ――今ここに、『天下布武』を掲げる!


 アンビシオンの手が上がると、巨大な紋章が一瞬で描かれた。


「皇帝陛下、万歳!」

「バンザーイ!」


 フェイズ546年。

 この世を征した男の名はアンビシオン・ボナパルト。

 ソーマザード帝国の皇帝にして、世界の王である。


「な、何て事だ……」

「これから、我々はどうなっていくのだ……」


 王の誕生を迎える者。

 そして、震える者。

 長きに渡る戦国時代は今、終止符が打たれたのだった。

 賑わう会場の中で、一人静かに座り見守る男。

 戦場を駆け抜けていた、あの赤備えの男だった。

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