第04話 乱世の魔王
「スパゲット王、そしてその姫君であるヴェルミ。我々の力を理解してくれた様だな」
「……た、民の為に、可愛い家来達の為に、決断致した。私が責任を取る。どうか皆の者を許してくだされ」
「真っ当な生き方をしている王だ。その人間性は嫌いではない」
腰を下ろしているアンビシオンの前に、スパゲット王が深く跪いていた。
その横には王女ヴェルミも同じく跪いている。
アンビシオンはゆっくりと立ち上がり、スパゲット王の前まで一歩ずつ進んだ。
「だが、これは戦。敗者に未来などないが、お前は賢い判断をしてくれた。だから……」
アンビシオンの手から現れる紫炎。
呻き声と共に燃えているそれは、幾多の命を喰らってきた妖刀だった。
――この俺が直々に処刑してやる。
その恐ろしさは、スパゲット王を震わせた。
それどころか、周りにいる自軍の戦士達をも震わせた。。
王女ヴェルミも固まっている。
皆が気色の悪い汗を流した。
「ヴェルミよ」
「ち、父上?」
「後の事は頼んだぞ」
スパゲットは腹を括った。
――死ね。
振り下ろされる紫炎。
スパゲットの身体が今、斬られた。
「ち、父上ええええええええええええええええええええええええ」
悲鳴を上げたヴェルミが駆け寄ろうとしたが、取り押さえられてしまう。
「処刑は、完了した」
刃は紫炎と化して消える。
アンビシオンは剣だったそれを、腰に閉まった。
しかし、斬られたはずのスパゲット王に何も起きていない。
出血はおろか、深い切り傷すら出来ていないのだ。
スパゲット王自身も自分の体を見て、困惑した。
だが、異変はすぐに起きた。
「ヴぇ、ヴェルミ……よ……」
胸の内から襲う強烈な苦しみ。
胸を必死に抑えながら、スパゲット王は息絶えた。
その目は生気が宿っていない。
そのあっさりとした死に方に、ヴェルミは悲しみが起きず、立ち尽くした。
「姫さん、貴方の父は賢い判断をしてくれた。これならお墓が作れる」
「え?」
「最後の情けだ。これより酷い死に方をした者を我らは見てきたのだ。本当に運が良い方だった」
剣を閉まったアンビシオンがヴェルミの前に立つ。
頭を下げるヴェルミ。
「ヴェルミ、ロングソードの腕前はかねてより評価している。この地はソーマザードが占領する。貴様は、俺の世界を築く為の力となれ」
「な、何?」
「俺の所で『働いてくれ』と言っているんだ。戦士としてな」
「わ、私達は降伏した。お願いです。この地だけはどうか」
「政治が出来る者なら沢山いる。お前じゃなくても良いはずだ」
「し、しかし、私は!」
「世界を、見たくないのか?」
「え?」
「貴様の気持ちはよくわかる」
ヴェルミは頭を上げると、目の前のアンビシオンと視線が重なった。
アンビシオンは膝を下ろし、ヴェルミの顔を覗く。
「貴様はもっと戦いたいはずだ」
「そ、そんな事は」
「いや、隠す必要はない。この地で剣の素振りをするのも良いが、まだ見ぬ世界へ飛び出してライバル達に挑んでみたくはないか?」
ヴェルミの心は震えた。
しかし、それは恐怖ではない。
透き通る眼差しから伝わる黒き光。
その光が、ヴェルミの心を掴んでいた。
「貴様を認めよう。戦士ヴェルミよ。父にも認められなかった心の全てを」
漆黒の掌がヴェルミの前へ伸ばされた。
「俺の為に世界を一つにしてくれ。ヴェルミ」
「は、はい」
ヴェルミは掌を握り、改めて頭を下げた。
「皇帝アンビシオン。我らの、私の、アンビシオン」
心を掴んだ。
口元を歪ませるアンビシオン。
一陣の疾風が戦場を吹き上げ、野鳥の群れを飛び立てた。
その日の夕方、アンビシオンは戦場を歩いていた。
戦士達が帰りの身支度をする横を進み、やがてその足を止めた。
「おい」
アンビシオンの声に振り向く戦士。
それは、今日の戦でスパゲット王を降伏させたあの赤備えの男だった。
「今宵の戦も見事だった。どうだ? 正式に将軍職をやってみるつもりはないか?」
「……いい」
「そうか。相変わらず欲のない奴だな。お前は」
赤備えの男は首を横に振り、誘いを断った。
「なあ、お前は何を望んでいる?」
「望む?」
「そうだ。お前が今欲しいものだ」
「戦い、かな」
「血に飢えた奴だ。では聞くが……お前は『その先』の事を考えた事はあるか?」
「その先?」
「そうだ。やがて戦国の世は終わる。この俺が終わらせるからな。平和になった世で、お前は何を望む?」
静かにアンビシオンを凝視する赤備え。
何も答えない赤備えに対して、アンビシオンは微笑んだ。
「その先の事までは考えていないんだな」
「……はい」
「フッ。覚えておけ。所詮、戦いは『過程』に過ぎない。勝利も敗北もだ。だからお前は、その先にある『結果』をどうするか、決めておくんだな」
赤備えは特に何も言わず、帰りの支度を再開する。
そして、アンビシオンは振り向き、本陣へと帰っていった。
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