5.戦神の業火編

『明星の章』

第51話 悪の手先

 ある宿の一室に、女が一人、机に向かって座っている。

 ベッドが一つと、机と椅子も一つずつ置いてあるが、それらが小さく見えるくらい広い部屋だった。

 その部屋で、ミレッジは紅茶を嗜んでいた。

 カップに入った紅に、白を加えてかき混ぜる。

 口に入れれば、絶妙な渋みと甘さが体に染み込んだ。

 ご満悦。


「ミレッジさん、これを」

「うん?」


 部屋に入って来たルークが新聞紙を片手に、ミレッジに手渡す。

 ミレッジが新聞の中を覗くと、そこには見覚えのある人物が写っていた。


「へぇー。スピルシャンビギンズ。カッコイイわね」

「音沙汰無しでしたが、どうも自殺しようとした子供を止めたらしいです」

「それじゃあ頃合いね。人は取れた?」

「はい」

「その人達は強い?」

「全員、GOHの賞金首リストに入っています」

「どれぐらいの価値?」

「少なくとも、一国分の悪人です」

「彼らに『動いて良し』と伝えて」

「わかりました」

「ついでにオレンジジュースも買って来て」

「は、はい」


 相変わらず注文の多い上司だ。

 ジュースくらい、自分で買えばよいのに。

 ルークは眉を寄せながら、部屋を出た。

 再び一人になったミレッジはティーカップを手に、ひとり口を緩む。


「ふふふ。どんな活躍をしてくれるのかしら? 期待しているわ。ダージリン君」


 香るミルクティーが、ミレッジの口に流れていく。

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