十七 ある気付き
十七
私の端末に留守番電話として残されていた言葉たち。
その内容はどれも同じ、家に帰れないという旨。
そして差出人たちは私がこの一週間の間に出会ったり話したりした女性たちだった。
鯉山仁子、白壁葵、白壁菖蒲、冷泉トモエ、樋之口紗英、壬生辻纏、そして雁金空也。
若王子さんと相生さん、それから藤花さんを除く七人が謎の空間に閉じ込められている。
空也の言っていた話によると葉子のいる場所へと繋がらないらしい。
葉子がいるのは神の世界とも言うべき場所であり、この世とは違う場所だ。
何者かが霊的な力で閉じ込めていたとしても、彼方と此方の繋がりを遮断することは難しいはずだ。
それに彼女たちが狙われている理由というものが分からない。
何らかの能力者がいたとしても、彼女たちを狙う理由がない。
「……!」
私の持つ端末に着信。
空也や他の人たちからの連絡かと思ったがそうではなかった。
画面に映る相手の名前、桂御園信太。
私の友人だ。
「……もしもし」
「菊屋。どうした、もうすぐ約束の時間だが」
「あぁ、それなんだけど……」
私は彼にいま起きていることについて話した。
それによって何か解決の糸口が掴めるかどうかは分からないが、誰かに話すことで自分の中でも整理を付けたかったのだ。
少なくとも現状で分かっている全員の共通点は私と出会ったということぐらいだ。
他には人間の女性ということだろうか。
しかし、相生さんや若王子さんが閉じ込められていないのはなぜなのだろうか。
「……俺がなにかしたか?」
桂御園はそういった。
恐らくいつかの事件のことが頭をよぎっていたのだろう。
芸術家・桂御園信太は自身の抱えた強烈な妄執じみた思考によって、ただの霊を神の領域にまで押し上げようとしたことがある。
それと同じように彼が私とした話から何らかの妖の類を生み出しているのではと思ったのだろう。
「いや、多分それはないと思うよ。桂御園が僕が会った女性を閉じ込めたいとか思ってたら話は別だけど」
「……そういうことは考えてないな」
どういうことは考えていたのだろうか。
疑問ではあったがその辺りは彼と会った時に聞くとしよう。
多分だが相手もそのつもりであろうし。
「だから今日は遅れるか、最悪行けない。約束を破るようなことをして悪いんだけど」
「あぁ、構わん。俺としてもそういうことがあったうえで俺を優先されても困る」
「……にしても、いったい何で」
「俺には何も分からんが」
そう切り出して、桂御園は私に言葉を発した。
「閉じ込められていない人間同士で何か共通項があるのか?」
「え……サークルの先輩か、な……? いやでも、藤花さんは……」
藤花さんは私のサークルの先輩ではない。
だったら、サークルの先輩というのは共通項ではない。
それではないなにか。
思い出せ、何か今までのあった出来事で彼女たちを縛る項目を。
「ん……」
記憶の海を旅している間に思い出したことがある。
あの時、電話をしていた藤花さんは私に一体何を言ったのかを。
信じたい事ではなかった。
なぜならそれが事実だということは思い上がり甚だしい。
私には自分自身が自惚れの化身であるように思えてしまう。
だが、そうだとしたら彼女たちを閉じ込めた存在にも察しが付く。
その存在を私は知っている。
かつて空也と私を取り囲むように起きた問題がある。
その原因が今この瞬間にまた現れたたのだとしたら、理解できる。
「何か思いついたのか?」
「一応……でも、本当かどうかは分からない」
「……そうか。まぁ、とにかく俺は今日ここにいる。間に合ったら来い、日付が変わるまでは店にいてやろう。店員からの視線が痛いがな」
そう笑いながら、桂御園は通話を切った。
私は玄関に向かってドアと向き合う。
「……問題はどこから繋がってるからだけど」
ドアを開ける。
そこはいつもの光景が広がっていた。
ドアを閉め、鍵をかける。
靴を持ってベランダに向かい、外を見た。
いつもと変わらない景色、しかし何かおかしな雰囲気を感じた。
あそこに何か解決の糸口があるかもしれない。
ベランダで靴を履き、私はそのまま転落防止の手すりに足をかける。
手すりの上にしゃがみ込む。
風が吹いていた、気持ちのいいとはいえない風だった。
「僕は天狗だ」
そう呟いて、跳んだ。
風を切りながら体が落下する、地面に近付く恐怖を感じながらも僕の体は変化した。
服を突き破るかの如くカラスのような羽根が生える。
私はそれを生まれ持ってのものであるかのように自由自在に操った。
落ちたからだが上昇し、飛んでいく。
空中飛行である。
「面倒なことになったなぁ……」
責任者は誰か。
恐らくそれは私なのだ。
この菊屋咲良こそが、今回の件の原因なのだ。
そうでないことを祈りたいがそうはならないのだろう。
私はベランダから見て違和感を感じた場所に向かって飛んだ。
不意に世界が歪んだような錯覚に陥った。
私の背から生えた羽根が抜けていく。
空中で姿勢が保てなくなる。
落ちていきながらも、私は私の予測が当たったらしいことに安心していた。
問題は落下した時に痛みがあるかどうかだが、きっと大丈夫だろう。
予想が当たっているのならば、私は死なない。
もしも私に何かあった時は私の予想が外れた時なのだから、その事実を喜ぼう。
神秘が剥がされる、私の体が落ちていく。
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