19 ―お休みの日―
19―お休みの日―
聞くところによるとあの後疲れで眠ってしまった私達を助けたのは雁金空也と意外にも桂御園君信太であった。
目覚めたのは空也の部屋ではなく寮の部屋だ。
最近は空也の部屋に入り浸っていたのでこの部屋に少し懐かしさを覚えた。
「で、進捗はどうだ。茶屋」
「菊屋ね。別にいいけど。若王子さんと相生さんは何とかなった」
「おお! 良し、実に良し!」
嬉しそうに私の方を叩く桂御園。
傷口に響くのでやめて欲しい。
「そうだ。ありがとう。わざわざ運んでもらって」
「いい。許す。止血とかは雁金がやった。そっちの礼はあいつに言え」
なるほど。
空也にも後で礼を言っておこう。
いい加減桂御園は私の名前を覚えるべきだと思うが。
これよ私の能力の反動なのだろうか。
いや、しかし……
「おおい。大丈夫ぅ?」
部屋に空也が入ってきた。
相変わらずアルコール摂取済みに加えてアルコール所持状態だ。
それと白紙を持っている。
「ひどい目にあった」
「ごめんよぉ」
別に謝られる事は無い。
私がしたことに対する仕返しなら安い。
「その……相生さんはどんな感じ」
「ん? 大丈夫だよぉ。心配してくれたんだね。ありがとう」
「いや……そんな。あ、空也。怪我の面倒まで見てくれてありがとう」
「いいよ。大した傷じゃなかったしねぇ。今日は一日安静にしておきなよ。治ったってイメージが出来ればぁ明日にでも回復するよ。あ、後ぉこれ相生ちゃんに心霊スポットとか教えてあげるから書いてぇ」
「なるほど。でも今日一日休みかぁ……まだ過書さんが残ってるのに」
結構ハイペースで戦っている気はするがまだ一人残ってる。
過書古市。
殴られた若王子さん、拘束された相生さん。
二人共多少なりとも印象に残っていたが彼だけは謎のままだ。
若王子さんと相生さんが来た時も彼だけはいなかった。思えばまっさきに退却を選んだのも彼だ。
何をしているか何を考えているか分からない。
私はかりかりと空也から渡された紙に知っていることを書き連ねる。
「それとぉ……過書君はちょっと待って」
「なんで」
「あの子がどこにいるか分かんないんだぁ。連絡はとれるから交渉は出来るんだけどねぇ」
「隠れているのか。臆病なのか慎重なのか」
この場合は慎重と言うべきだろう。
若王子さんや相生さん達は一人でも今回の事件を解決出来る力があると思う。
だからきっと彼もそうなのだろう。
「まぁとにかく、少年と過書君がぶつかれるようにするからさぁ、ちょっと待っててねぇ」
私から紙を受け取るとへらりと笑って空也は部屋を後にする。
「さて、桝屋。よくやってくれたな」
「まだ全部は終わってないよ」
「だが三人中二人を倒した。いい働きぶりだ」
「それはどうも」
しかし昨日の相生さんと私は完全に私が悪役の画であった。
正義の味方の反対はむにゃむにゃというがなんだか桂御園の方が悪役が似合ってしまうので困りものだ。
葛葉さんの味方をしている、桂御園の味方をしている。
どちらも意味合い的には同じなのに感じ方がなんとなく違いそうだ。
「今お前失礼な事を考えたか?」
「その言葉が一番失礼だ」
否定はしないが。
「……そういえば、結婚式ってどうするの」
「どういう意味だ」
「だって……葛葉さんは普通の人には見えない……あぁ、いやそれだけじゃなくて。日本式とか洋式とか色々あるだろうに」
「お前、招待状をちゃんと読んだか? 場所は山の中だ。式場じゃない。それに普通の式を挙げる気もない」
そうだったのか。いやそうなるか。
勢いで手助けを申し出たから場所とか見落としていたのかもしれない。
「じゃあどんな特別な式を挙げるつもりなの?」
変人かつ芸術家かつ宗教家の異名をとる桂御園信太だ。
どんな変な話が飛び出るかという感じもする。
そう思ったら少し興味がわいてきた。なぜだろう不思議だ。
「何だお前さっきまで興味なさそうな顔をしていたくせに」
「純粋な興味だよ。人と妖の結婚式なんて見たことがない」
「そういうものか。まぁいい。では聞くといい。式が挙がれば世界が変わる」
「世界が変わる?」
革命家かなにかなのだろうか。
今でも三つ、君を表す言葉があるのに四つ目を今ここで発見した。
「葛葉は夜にしか出てこられない。それはあいつ自身の力がまだ弱いからだ」
理解できる。
桂御園はあの日私に丑三つ時に来るようにと指定した。
そして指定された時間に葛葉さんは現れた。
対若王子さん作戦で手伝ってもらう時も彼女の事を考えて丑三つ時に作戦を決行した。
それにユートピアが夜に襲撃してきたのは寝ていそうという理由ではなくその時間でないと葛葉さんを殺せないという事情なのだろう。
葛葉さんの保護をしている空也がずっと葛葉さんや桂御園に付きっきりでないのもそういう部分があるからだろう。
「式の日が何の日か知っているか? 満月の日だ。」
自信満々に胸を張る桂御園。
私はその日が満月であるか知らないので頷きにくいが。
「満月の日は霊の力が高まる。普段とは比べ物にならないくらいな。するとどうなる? 葛葉の持つチカラが膨れ上がる」
理解できる。
月の魔力というか月が霊的な力を持つのは確かだと思う。
満月を見て狼に変わる怪物の話もある。
現実にそうなのか調べた訳では無いが満月ならば霊の力が高まると言われても納得してしまう。
少なくとも私はだが。
「膨らんだらどうなる?」
「あめのびさいのかみの分霊たる葛葉はあめのびさいのかみに近づくのだ」
「? 本当に? 分霊っていうのは前に聞いたけど、そもそも分霊ってそういうものなのか」
「阿呆。分霊とは暖簾分けのようなものだろう、本店ではない。暖簾分けと本店では味が全然違うだろうが」
誰が阿呆であるか。
絶対に桂御園の理論は間違っているはずだ。
この場に空也や葉子がいればきっとはっきり否定してくれるはずだがこうもあっさりと言われると自信も薄れる。
いや絶対に違うと思うが。
「葛葉は暖簾分けではなく、本店になれる可能性を持っている。俺とあいつの式があいつを本物のあめのびさいのかみに変える」
「それだと結婚式っていうより儀式だね」
「結婚式も儀式のようなものだ」
……確かに婚姻成立の儀式ではある。
「で、あめのびさいのかみになったらいい事があるの?」
「俺の夢が叶う。つまり、世界をキャンパスにするということだ」
「世界をキャンパスに……急に芸術家みたいなことを……いまいち理解しかねるけど」
「俺はずっと芸術家だよ。それと、今はまだ全ては話さん。残り一人を倒せ。そうしたら教えよう」
与太話もいいところなので教えていらんという気持ちはある。
しかしここまで壮大な妄言がもしも事実であったならどうだ。
桂御園は変人だ。けれども人ならざる世界というのは変な世界だ。
妖や神は人のものさしでは測れないだろう。
とりあえずこれ以上は聞いても答えてくれないだろう。
質問するなら答えてくれる内容でないといけない。
「ところで全く関係ないんだけどさ」
「どうした?」
「暖簾分けした店って本店と全然違う味なのか?」
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