覚書 雁金空也の日記1

本日の天気、晴れ


 今日は咲良くんが正式にユートピアに加入したんだ。

 あの子は私の所有物でも所有人でもない。

 だから、私は彼のしようとすることを無理に止めたりはしない。

 しない……んだけどぉ……悩みどころだなぁ。

 ねぇ、葉子ちゃんはどう思う?

 知らん? 知らんって言った? 人が悩んでるのに?

 あぁ、神様だもんねぇ。

 仕方ないね、それもね。

 何が問題って……いや、問題っていうか、結構危ういところもあると思うよ?

 何ていうのかな、感受性というかそういうの。

 咲良くんは周りの影響で変化するっていう一面があるからね。

 外側からの刺激を受け入れやすいのかもしれないって考えてるんだけど……

 え? あぁ、そうだよ。

 私は菊屋咲良研究の第一人者、菊屋咲良学の博士号取得も夢じゃないんだよ。

 ははは、冗談って訳でもあながちないんだよねぇ。

 彼の性質を見極めたりするのは、私の役目じゃないかな。

 恋人だからっていうよりも、私が彼を見つけたから。

 自分の能力とか体質を知るのは霊能力者にとっては大事なことなんだ。

 だけど、それは誰からも教えてもらうものじゃない。

 私も若王子ちゃんも過書くんも自分でそれを認識したよ。

 でも咲良くんはちょっと特殊だからね。

 思い込むと本当にその通りになっちゃうから、なるべく客観的な目で見た方がいい。

 うん、そうだよ。

 私たちが思い込ませちゃったら、あの子はその通りに変化するよ。

 自分で自分が危ないことしてるって思ってる。

 私は私の恋人を洗脳してるのかもって……てぇ、そういう話をしたい訳じゃないんだけどぉ?

 咲良くんは私や葉子ちゃんと出会ってさぁ、こういう人ならざるものとか超常の世界に足を踏み入れて、そして今はもっとその世界に深く入り込もうとしてる。

 はっきり言う。

 朱に交われば赤くなる。

 妖に交われば妖になる。

 あるいは人でも妖でもない、何かになってしまう。

 心や体に取り返しのつかないシミを残すんじゃないか。

 菊屋咲良っていうあの男の子にとって、それって冗談じゃ済まないかもしれない。

 ……不安だよ。

「気にし過ぎや」

 え?

「何を気にしてんねん。咲良君がそれを分かってるかどうかは知らんけど、空也ちゃんが分かっとったら十分やろ」

 そうかなぁ……?

「そうや。咲良君かてもう大人やし、責任の取り方やら痛い目の見方も覚えなあかん」

 ……

「元・妖怪、今・神様の身としては人間の営みっちゅうんはよう知らんけど、いつまでも囲ってもらうわけにはいかんのがスジなんちゃう」

 そうだね。

 温室育ち……とは言わないけど、私が過保護過ぎたかぁ?

「ベタ甘やん」

 あはは……いや、これで結構お姉ちゃんしてると思うんだけどなぁ。

 頼れる女性って思われてる、といいんだけど。

 あ、これって乙女チック?

 想い人からどう思われてるか気にしてるってのは、ポイント高い?

「何のポイントやねん……あぁ、乙女チックポイントか。高い高い、ストップ高やで空也ちゃーん」

 私もぉ、そこまで本気で言ってないですぅ。

 ……うん、そうか。

 ちょっとぉ気にし過ぎだったかな。

 気にし過ぎっていうか、不安になり過ぎてたかもなぁ。

「多分な。どうなるかはウチには分からんし。神様いうても、そういうのじゃないし」

 それもそうだねぇ。

「ほんまはまだ心配やろ?」

 ……しょーがないよぉ。

「そやな。しゃあないな……あ」

 どうしたのぉ?

「変化する能力の咲哉君が他人の影響で変化するんやったら、保存する能力の空也ちゃんは他人の影響って受けにくいんか?」

 あー……んー……そう、だね……おおむねそう。

 多分、そうなんだと思うんだけど……

 マイペースなだけっていうのかもしれない、かな?

「? なんや、歯切れ悪い……や、ええわ。忘れて。忘れられへんかもしれへんけど、気にせんといて」

 なんで?

 大丈夫だよ、葉子ちゃん。

 はじめから気にしてないよ。

 色々思い出すことがあったってだけだし、ちょっと前のこと。

「……さよか。そうやねんやったらよかったわ」 

 うん、そうだよ。

 まぁでも、そういうところは考えたことなかったかも。

 今まで気にしなかったから、自分を見つめ直すいい機会かもねぇ

「お、真面目やん。お酒抜けてきたか?」

 あはは、そうね。

 ほっとくと、すぅぐお酒抜けちゃうからさ……

 その分たくさん飲めるって訳なんだけど。

 一長一短だね。

 あ、やっば。

 少年にコンビニ行ってくるって出てきたんだった。

 あんまり遅いと心配かけちゃうや、そろそろ帰るね。

「はいはい、帰る時にこけんようにな」

 子供じゃないってば。

「それ、咲哉君もおんなじこと思うてるかもな」

 聞こえなーい!

「……あぁ、行ってもうた。なるべく家の近くに転移できるようにしといたろ……空也ちゃん、一発で酔い覚めとったやん。あ、それかホンマに体質の問題やったんかな」


 まぁ、人生色々あるわな。

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