スタンスを探そう

一 スタンスを探そう


 強くなりたい、と私は考えた。

 男の子的な強さへのあこがれではない。

 桂御園事件以後、私は強いということがどういうことなのか思い知った。

 よく分かった。

 分からされた。

 分からされてしまった。

 人のような妖と戦い、妖のような人と戦い、人らしい人と戦い、そして妖らしい妖を倒した。

 感想は……そう、感想があるとするならば、『怖かった』

 戦っている途中も、戦った後も、怖かった。

 恐怖に眠れない晩を味わわされた。

 猟師と獣のようだった。

 クモとハエのようだった。

 王と市民のようだった。

 私と彼ら―――退魔サークル『ユートピア』の三人は、それほどの戦力差を抱えていた。

 それなのに私が彼らに勝利できたのは、幸運というほかない。

 もしももう一度戦ったとして、私が勝てる確率は非常に低いだろう。

 もっと言えば、あの時の私は寝業を利用した。

 神様である妖狐の葉子を頼り、ユートピアの一員であり、師匠でもある空也に頼った。

 表側、裏側、使える力はすべて使った……はずだ。

 対する彼らはどうだっただろうか。

「何やったって勝ったからいいんだよぉ」

 雁金空也は僕をそういって励ましてくれた。

 その言葉がなんだか痛い。

 自分に期待はしていなかった。

 手段を選べる立場でもなかった。

 ただ目の前の事をやり続けてきただけだ。

 本当に、それだけをしてあの事件を乗り越えた。

「頑張ったじゃん。それで、いいと思うけどぉ?」

 そうだね空也。

 彼女の言葉は温かかった。

 コタツのようであり、毛布のようだった。

 いや、今この夏の季節にそれらはちょっと勘弁願いたいが、精神的には凍土のようだったから助かった、というのが本音だ。

 それでも私が、菊屋咲良が苦しかったのは、私自身のいかんともしがたい無力さだった。

 スープが冷めないうちにたどり着ける場所、同じ寮の中で起きていた事件があった。

 ほんの少しだけ横道にそれれば、事件を見つけることが出来た。

 今まで霊感体質故に、幽霊を見たり、妖怪変化の類を見た事はある。

 それどころか神様に出会ったことや、人ならざる者と対話をした経験もある。

 しかし、大立ち回りを演じたのはあの時が初めてだ。

 太刀にバットを変じさせて振り回したのは、あの時が初めてだ。

 価値のある経験だったとは思う。

 だからこそ、それを無駄にする生活はしたくないと私は思った。

 故に、それ故に、退魔サークル『ユートピア』に入ることになった。

 今回私が諸君らに語る話は、人と人の話だ。

 同時に、人と妖というものに関わる話でもある。

 それではご清聴、いやご一読ください。

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