十八 縁
十八
「起きなさい」
「起きろ」
その声を聞いて私は安心した。
自分の想定が間違いでないということはこれで明らかになった。
空也は葉子の所に繋がらないと言った。
原則として神のいる世界というのは現世のどこからでも繋がる。
扉や森、そういったものを起点にしてあちらとこちらは繋がるのだ。
けれどそれが出来ないのなら理由は限られてくる。
入り口にするものが存在しないか、あるいは『すでにそこにいるか』だ。
「ううん……」
「随分時間がかかったと思えば、今度はダラダラと寝ている」
「許されることじゃないぞ」
顔を上げた先に二人。
糸切りはさみを持った少年と糸巻きを持った少女。
私はこの二人……正確に言えばなんだろう、二神? 二柱? まぁ、とにかく目の前の二人を知っている。
というか、お世話になってすらいる。
彼と彼女は『縁結び』と『縁切り』の権能を持つ神様だ。
「……起きなさい」
「お、起きるよ……起きる、ほら起きた」
辺りを見渡す。
いつもの見なれた景色はそこにはなく、周りは木々に取り囲まれている。
ここが彼らの持つ神域なのだろう。
「なんで自分がここにいるのか分かるか?」
糸巻きを向けながらそういう少女に私はあいまいなうなずきで返した。
「……僕が空也以外の女性と仲良くしたから?」
「事はそう単純でもないです」
「我々の前でしたことを忘れたのか」
覚えている、僕は彼らの前で誓った。
かつて自分が願った事が成就することを誓ったのだ。
雁金空也との縁を望んだ、その結果として彼らと出会った。
そういう経緯の元で誓った。
「……見せてやる」
糸巻きが私の体に触れる。
すると、私の体からいくつもの糸が現れた。
……正しく言うのならこれは元からあったもので、今やっと私の目に見えるようになったのだろうが。
私の首から伸びるいくつもの糸。
そして、小指に繋がれた糸。
「……人は真に縁を結ぶ時は神の前に立つ。そして、誓う」
二人の目が私を射抜く。
首から伸びた糸をたぐられると首を絞めるような感覚に襲われる。
「菊屋咲良と雁金空也の縁、確かに我々が……いや、お前たちが誓って結んだ」
「なのになぜ、貴方にはそのように強い縁が繋がっているのですか?」
「それは! それは……」
答えは出ているが、口に出すのはためらわれた。
それが真実であるかどうかというのはほとんど明らかで、しかし心のどこかでそれを否定したい気持ちもある。
うぬぼれにも似たその答えは、私が言うより早く示された。
「鯉山仁子・白壁葵、菖蒲・冷泉トモエ・樋之口紗英・壬生辻纏、以上六名は貴方を求めています」
「……なんで」
「本人に聞いたらどうだ?」
「そんなこと」
「して、いたただきます」
その態度は有無を言わさぬもので、拒否権などないのだと分からされる。
「私たちは縁を結ぶために既に結ばれた縁を切ることもあります」
「縁を結ぶというのはそういうことだ」
「……僕と空也の縁を切るというんですか?」
じわり、と背に冷たいものがにじむ。
たとえ私の命に変えてもそれだけは避けないといけない。
私にとって空也はそれほどの存在であるし、彼女が私を忘れてしまえばその日のうちに私は命を絶つ。
「ケジメをつけろ。お前の行動の結果だ」
「糸をたどり、彼女たちのところに行き身辺の整理をしなさい」
それが私に課せられた責任。
でも、なぜこうなったのだろうか。
「雁金空也への愛を証明しなさい」
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