5 ―空也とのひと時―
5―空也とのひと時―
桂御園の部屋から出た私であったが直後に空也が約束だと言ったため喫茶店に入った。
クオリアと名付けられた店で洋風の外観とノスタルジックな内装。
古めかしいが手入れは行き届いている私たちのお気に入りの店である。
「で、どうするんだい? 少年」
私がケーキセットで注文したショートケーキにフォークを刺した辺りで空也は質問を投げた。
「気乗りしないよ。あいつの指定した時間に部屋に行くべきか悩んでる」
「ふうん。で、先輩って人はどうする? 少年がさっきのこと話したらついてきちゃうと思うぜ」
「何があるのか分からないし、もう少し詳細なことが分かったら先輩に知らせようと思う」
「そうかそうか。うんうん、それでいいんじゃないかな」
「やっぱりそう思うのか? なにかあの水晶玉からよくないなにかを感じたとか?」
私は彼女の意見を聞いておきたかった。
「正直、僕は嫌な予感がしているんだ」
「ん……んーまぁ、普通のものじゃあないよ。なんていうか、いわくつきって感じさ」
やはりそうかと私は自分の中で湧いて出た考えが間違ってはいないのだと確かめた。
そういうものに関していえば私より空也の方がよっぽど強い。
「にしても強烈……いや、なかなかの子だったね。桂御園君は」
「話が通じないんじゃないかと思ったよ」
「桂御園君っていっつもあんな感じなの? ていうか、寮に入る前から?」
「寮に来る前の桂御園は知らないけど……まぁ、僕より先に入居してるし。でも、僕が寮に入ったときからあんな感じだった」
「ふうん。そりゃ大変だ。私寝るときってすごく音に敏感になっちゃう性質でさぁ。夜にもしもギターじゃかじゃかされたら参るよ」
嘘をつくなよ空也。いっつも快眠の癖に。
「いっとくけど、寮生みんながあんな感じじゃあないからね」
「なに? そんなこと思ってないよ。ま、確かに折部寮っていったら変人の巣窟みたいに思われているみたいだけどさ」
こうして会話していると桂御園と話している時のような変な緊張感というものはなかった。
相手が空也というのもあるのだろうが、桂御園の自己完結的な会話を経て感じたことは彼の持つ自信だ。
自身への自信。絶好調という感じだ。余裕があり、こちらを上から眺めているような。
「変人の巣窟か……」
「お姉ちゃんから見れば世の中の皆が変人だよぉ。霊感はないし、お酒飲みすぎたら潰れちゃうしね」
「……」
そう、折部寮入居者が変なのではない。
変なやつが入居しているだけだ。雁金空也も世間から見れば変わっている。
一般人と同じ、というわけにはいかない。
彼女もまた霊感を持ち、彼女と共にいたからこそ知れた現実というのもある。
「ねぇ最近寮内で幽霊とかは見たかい?」
突然の質問である。
霊感体質ではあるが四六時中霊の類を見ているわけではない。
それに寮内と限定されるとさらにその回数は少なくなる。
というよりも寮内でそういうものに遭遇する回数はゼロだ。
「いや、見たことがない。あの寮ではそういうのとは会ってないよ」
「ふうん……」
「なにか気になることでもあるの?」
「いや、いいさ。気にしないでいいよ」
そういって空也はにっといやらしく笑った。
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