10 ―葉子―

10―葉子―


「やぁ少年待ってたよぉ」

 私達が進むと森の中に古びた神社が現れる。

 木々の間から差し込む光が神社に当たる。

 手入れなどされている様子はない。

 今にも潰れそうでまさに廃神社とう感じだ。

 空也は地面に座り酒をあおる。

 地面には彼女の飲んだらしい酒瓶が逆さまに地面へと突き立てられていた。

「遅かったなぁ。お姉ちゃん寂しかったぞ。葉子ちゃんはお酒飲まないしさ、少年飲む?」

「いらない。葉子は?」

「ここ」

 空也が指さしたのは賽銭箱だ。

 まさかと思い駆け寄って中を見てみればそこで本を読んでいる者がいる。

 賽銭箱の中に手を入れるのを防ぐ桟はない。

 膝を胸にぴったりとくっつけている。

 そこまで箱入りにこだわる必要は無いだろう。

「なにしてる」

「読書」

「いやそうだけどさぁ」

「鍵屋、こいつは?」

「なんや咲良君改名したんか。それとそこの、お前こそ名前知らんわ」

「桂御園信太だ。お前こそ名前はなんだ」

「口のきき方きいつけえよ、ボケ」

 お賽銭などをする際に鈴を鳴らすだろう。

 参拝者を清めたりするらしいあれだ。

 葉子が本を閉じると高く吊られた鈴が桂御園の頭に落っこちた。

 鈴の音がする。桂御園も少しは清められただろう。

 けらけらと空也の笑う声が聞こえた。

「なにを⋯⋯」

「ウチの名前は葉子。この辺りを取り仕切る神様、玉藻の前の生まれ変わりの妖狐の葉子さんや」

「神様……? 玉藻の前だと。お前がか? 全くそうは見えんし、意味が分からん」

「あっそ。じゃあその体に教えたるわボンクラが」

 地面に落ちたはずの鈴が浮かび上がり餅つきでもするように一定のリズムで桂御園に落ちる。

 頭を抱えた桂御園は逃げ回るがモグラ叩きのように鈴は追い続ける。

 なんとも奇妙な光景だ。

 がらんがらんと何度も音がするがあの様子では清めるのには一年ぐらいかかるかもしれない。

 玉藻の前云々は冗談だ。彼女はそれが真実だと主張するが確かではない。

 だが神様というのは真実である。この廃神社周辺の空間を彼女は意のままに操れてしまう。

 それがこの場における神の権能らしい。

「そろそろやめてあげてくれよ」

「そうだよ葉子ちゃん。私達のしたい話、出来ないんだけど」

 空也は酒瓶片手に抱きついた。

 葉子にではない私にだ。なぜ私にしたのかは分からない。

 賽銭箱の葉子に抱きつけないから私にしたのか?

 空也を手で押してのけながら私は買い物袋を葉子に見せた。

「油揚げ。それでどうだ」

「しゃあないなあ。せーの」

 がらんと先ほどまでよりも大きな鈴の音。

 桂御園の方を見れば顔面に鈴を受けたらしく鼻を押える彼がいる。

「場所貸すために神様なったんちゃうでウチは」

「ごめん」

「ええよ。咲良君と空也ちゃんやし。でもそこのボケには要注意や。でないと今度はこの神社の下敷きにしたるさかいにな」

 がらがらと崩れる神社とその下敷きになることを想像してしまう。

 全身の骨が折れたような気分になりめまいがした。

 ともあれ、これで準備は整った。

 話さなければならない。我々のことを。そして空也にも聞きたいことがある。

 それらが終わった後に私は私がどうするかを考えるのだから。

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