15 ―理由―

15―理由―


 案を提案した後、私が空也に与えられた指示は休むことだ。

 決していったん寝て落ち着けという意味ではない。体を休めて英気を養えということだ。

 準備や根回し関係は空也がしてくれるらしい。

 桂御園の招待状に丸をしたのが昨日の昼過ぎの話だったのであと六日。

 それまでの間にあの三人を打倒せねばならない。

 そう思うと心臓がどきどきと脈拍を上げ眠れなかった。

 けれど体が疲れていたのだろう。しばらく気晴らしに空也と会話をしているうちに眠れていた。

 いいことだ。私が目を覚ましたのは夕暮れ時。台所の方では料理をしているらしい音と共にいいにおいがしてくる。

 空也が料理を作ってくれていたようだ。

「……」

「出来たぁ。少年起こしに行こう……って起きてるじゃん」

「おはよう……空也」

「おはよ。少年。いい夢見れたか?」

「何も見なかったよ。ベッド……貸してくれてありがとう」

「いいよ。初めて寝かせたわけじゃないんだからさ。自由に使っていいんだよ」

 目をこするが眠気が消えない。苦痛だ。

 それと喉も乾いた。冷房がずっときいていたからからだろうか。

 ちくちくとした痛みが喉にへばりついている。

「少年。目が覚めたら言ってね。ご飯、少年の好きなハンバーグだよ」

「うん……」

「まだ眠いか。少年寝起きぱっちりじゃないの結構大変だねぇ」

「んー……あれ、素面か」

 彼女の酒臭さが消えている。一日の大半を酔っぱらって暮らしているというのに。

「お酒買い足したんだけどね。なんだかいいかなって」

「空也、ちょっと目が覚めた」

 そんなことがあるのだろうか。

 この飲兵衛がそんなことをいうなど信じられない。

「普段は控えろって言うくせに控えたらそれなんだもんなー。少年ひどいぞ」

「ごめん……」

「謝んなくていいよ」

「空也はなんで桂御園……いや、葛葉さんを殺しに行かなかったの」

「私達ユートピアはね、自分の中でスタンスを決めるんだ。それに反する仕事はしない。今回はね、お祓いみたいな内容だったの。北斗南次郎。桂御園君の同室の男の子だよ。その子が依頼主」

 北斗南次郎氏がユートピアに来るまで色々なことがあった。

 きっかけは桂御園が夜な夜な存在しない女性と話しているのを目撃したからだ。

 ギター演奏などは話し合いで解決したらしい。

 桂御園と真正面から付き合い同部屋の人物と桂御園を繋ぐ存在だったらしい。

 しかし見えないものとの逢瀬は流石に対処できないと思ったのかお祓いということでユートピアに依頼したそうだ。

「これは若王子ちゃんから聞いたことね。そもそも私は依頼しに来た時に私のスタンスと噛みあわないから遠慮したんだ」

「さっきも言ってたけどスタンスってなんなの?」

「活動するときに心がけること、自分が何のためにユートピアの一員として活動するかってことね。私は倒しちゃう目的の仕事は受けられない。それといくらスタンスが違うからって他の子の邪魔もしちゃダメだからさ」

「……若王子さんはどういうスタンスなの」

「妖を破壊するために活動してる。まぁ人間相手に本気になれない彼女が全力になれるのが妖退治なんだからしょうがない。彼女と戦える妖なんてそうそういないけど」

 全力を出すために妖と対峙する若王子さん。

 しかし妖でも相手がいないとしたら彼女は苦しんでいるのだろうか。

 目的を達成しようとしても達成できないという苦しさがあるのだろうか。

「そっか……でも、安心したよ。僕、空也がああいう人達の仲間って聞いて、同じこと考えてるんじゃないかって不安だった」

「お姉ちゃんが少年の思うお姉ちゃんから離れちゃうんじゃないかって?」

「いや、そこまでではないけど……」

「そ。でも少年が傷つかなくて私は嬉しいよ。でも……」

「ん」

 空也のデコピンがさく裂した。

 あんまり痛くはない。少なくとも若王子さんの拳に比べれば。

「ああいう人って言わないで。あの子達もあの子達の考えがあるんだから」

「……ごめん」

「謝んなくていいよ。目、覚めた? ご飯食べようか?」

「ん、んー……そうだね。その前に顔を洗ってくるよ。それと水分補給」

「そっか。じゃあ準備しとくね……あ、少年。失敗したらお姉ちゃんの胸で泣いていいからね」

 冗談ぽく笑って空也は私を抱きしめた。

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